「ネットCM」が「テレビCM」を超える日 | Talked.jp

Talked.jpby Sony Digital Entertainment

西 冬彦 氏

西:私は映画監督もやってますが、もともと映画会社で買い付けをやっていたんです。『少林サッカー』や『マッハ!!!!!!!!』、『私の頭の中の消しゴム』とか。ハリウッド大作と違って有名な俳優は出ていないので、宣伝すると言っても「トム・クルーズ来日!」というわけにはいかない。かなり工夫をしなきゃいけないっていうのが原体験としてありました。単純にCMを作っても当たらないだろうし、「ザワザワ感」を出して振り向かせたいと。今は、スマホで見られる6秒くらいのものとか、Twitterで拡散できるし、バイラルムービーに行くのは自然の流れかなと。

福田:いわゆるテレビの広告表現とバイラルムービーの違いというのは、どう思われますか? 映画のCMなんて、どれも変わんないですよね。

西:同じ宣伝会社がやっていますからね(笑)。邦画の7割方は同じ構成のCMなので、逆にそれで映画が当たらなくなってきているって劇場も言ってます(苦笑)。あんまり宣伝色が前面にくると、人に言いたくなくなるでしょう。買ってください、見てくださいって言われすぎると、その気がなくなるんです。その一方で、宣伝だか何だかよく分からないものだと拡散するんですよね。

福田:ちょっと前は「決してラストは言わないでください」なんてCMがよくありましたけど、今の人は、最後まで見た人の“ネタバレ”レビューを読んでから劇場に行くから、その手のCMは効果ないらしいです(苦笑)。 ばんばさんは、バイラルムービーは、どういう方向性に進むと見てらっしゃいますか。

ばんば:僕は現在、広告映像の企画、演出をメインに活動しているんですけど、コマーシャルは商品を売るためのものって、誰でももう知っていますよね。だから、たとえば大手外食企業が、「まずいよ」なんて広告を打つわけがない。なのに、コマーシャルはみんなすごくニコニコ笑って、「おいしいよ」とか、必ず言いますよね。それは、皆さんがコマーシャルで企業が言いたいことを一方的に聞かされているわけですよ。「買え、食え、買え、食え」って言われている感じ。こんなこと言うと、業界から怒られちゃいますけど(笑)。
で、バイラルムービーのコマーシャルの場合、パッと見た時、なんの商品だったか思い出せなかったりする。でも、これは悪いことじゃなくて。「すっごい面白かったよ」ってシェアしたくなるストーリーだったり、映像にビックリしたとか、自分の気持ちで拡散していく。それを何回も見たり、そのシリーズが気になって見ていくうちに、「あ、これってこんな企業がやってるんだ」と、自分が発見していく。そこがポイントかなと。テレビは押しつけられるとか、洗脳されるとか、よく言いますけど、Webだと自分で発見していく自由度がある。いい意味でユルい。表現の幅が非常に広いなと、実際にやっていて思いますね。

福田:すごくいいコンセプトが出ましたね。なんのCMか分からない、なんの動画か分からないから自分で探すというのは、検索時代のお客さんが持っているマインドかもしれませんね。用意されたものを見せてもスキップされるだけ。最近、YouTubeでマストビューのCMをやるようになって、目的の映像をなかなか見せてもらえない(苦笑)。たまたまその広告を出している企業の偉い方とお話しする機会があったんで、「うっとうしいからやめた方がいいですよ」って言ったら、すごい怒られました(苦笑)。でも、それを怒っているようじゃ駄目でしょう。目的の映像にたどり着けないジレンマが企業広告だなんて、むしろイメージが良くない。それなら、15秒の広告じゃなく、ちゃんと2分で笑わせてごらんなさい、泣かせてごらんなさいっていうのはありますね。

ばんば:テレビコマーシャルの時代って、いきなり映って、短い秒数の中で、「おいしいよ」とか、「安いよ」とか、「今だけだよ」みたいなことを伝える。しかも、テレビって媒体料が高いので、送り手としてはワンメッセージじゃなくて、いろんなこといっぱい言いたいんですよ。なので、プッシュされる感が強い。 でも、Webは、自分からサーチしていくメディア。関連のものもググってみようとか、自分からどんどん引っ張っていくので、答えをビシッとやっちゃうと無粋というか、ちょっとダサいんじゃない? となっちゃう。

「これを買って」から「これが良いよ」へ

福田:ここ最近、西監督とVine向けの映像ってどうあるべきかを語り合ってきて、バイラルムービーの本質的な問題がいくつか出てきた。お客さんの考える余白というか、余韻をどう残すかっていうこと。今、ばんばさんが言われた、なんのCMか分からないけど、ミュージックビデオを探すついでにリンクに出てくるようなものだったり、Facebookで友達が、「これ、怖いよ」、「面白いよ」ってアップしているものだったり。で、見てみたら、「あ、これタイヤメーカーだったんだ」と、そこで興味を持ってくれた人だけに刺さればいい。そういう感覚ってどうなんでしょう。

西:YouTubeとかでも映画の予告編とかありますけど、全然拡散しないんですよね。Twitterでも、映画の公式なんてフォロワーがほとんどいないですから。けれど、『ハイキック・エンジェルス』って映画で、女の子が跳び蹴りしているアクションの練習風景を「身長170センチの女子高生が跳び蹴りしまくる映像」ってタイトルであげたんです。そしたら、あっという間に30万ビュー。多分、「映画『ハイキック・エンジェルス』練習風景」みたいなタイトルだったらそんなに回っていなかったでしょうね。 もうひとつ、僕の経験で言うと、150万回ぐらい見られた動画がありまして。空手対カンフー、忍者対柔術みたいな映像なんですが、僕が勝手に作った「空水流武術」っていうが出てくるんです。ただし、本当にあるものなのか、ないものか分からない体で、しかも、フィクションなのか、本当の戦いなのかも分からないようにしたら、あっという間に広がって。賛否両論だろうと思ったら、「いいね!」と「死ね」が、もう、ほとんど同数(笑)。「こんなのは作り物だ」と言う人と、「これは本当にあるんだ」って人が盛り上がり過ぎちゃって。もう、「うそです」って言えない感じになっています (笑)。

福田:送り手が解決の姿勢を示しちゃいけないのかな。そこをお客さんに委ねて問題提起するというバイラルムービーの在り方が、CMでも映画でもない部分なのかと。

西:宣伝部としては、何か言わなきゃ、と思うけれど、ちょっと我慢して。「なんか、ああいうのあるらしいよ、何だろうね」っていうスタンスは結構重要かと。