『「アウトオブ外の世界」にアクセスする』(対談 山口 揚平 氏 × 福田 淳 氏) | Talked.jp

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対談  山口 揚平 × 福田淳

演劇をデート市場に参入させる!

山口:例えば、演劇なんかはもう下北沢とかにいっぱいあるじゃないですか。あれ、300団体ぐらい実はあって・・・。

福田:そうなんですか。

山口:中にはポップで、「普通の人がデートで見てもいいのではないのか?」という演劇もあります。ただし、エコシステムが閉鎖的というか、中に閉じているじゃないですか。

福田:わかるやつだけわかればいい、みたいなところありますよね。

山口:そうです。ちょっと小さめの劇場で、役者がチケットを配ってやるイメージですよね。市場がすごく小さい。そこで僕が相談を受けている劇団で、何をやったかというと、単純に席の値段を変えただけなんです。前列を1万円にしたんですよね。

福田:全部3000円ってことはないと。

山口:3000円ってことはないと。そこで、プレミアムの席を作って、シートの値段を変えることで、いわゆる市場経済にしようと思ったんですね。
それから、グッズもその劇団は作りました。そのときの劇の内容は、極道がしのぎのために結婚相談所をやるってストーリーだったのですが、劇中でちょっとした小芝居みたいなことやります。結婚相談所で使ったおみくじとかお守りとかそういうのを売ったら、100万ぐらい売上が増えたのです。

福田:すごいですね、それは。

山口:そうですね。プレミアムシートとグッズで無視できない売上になります。また、芝居って、通常、4日、5日しか公演しないんですよ。そうすると、身内しか来ないじゃないですか。だから、今度は劇場を無理やり20日間押さえるんですよ。そうすると、「神は真空を嫌う」というか、なんとか埋まるんですよね、席って(笑)。

福田:どうしてなんでしょうね。

山口:あれ、わかんないですね、なんか謎ですね。 

福田:最初の話は理解できたんです。どうせ身内しか来ないから、特に熱心なファンのARPU(収入単価)を高めようと、そしたらもうちょっと成り立つってところまではわかるんですけど、そういう20日間取っちゃえっていうのはどういう発想ですか? 

山口:そうですね。そうするとひと公演当たり劇場単価が下がるじゃないですか。劇場を借りる費用が多くを占めているので、それを20日間借りると、4日間借りるより一公演当たりの単価がだいぶ下がりますね。4、5割を占めているその劇場単価を下げる効果と、稽古やキャスティングなどにかかっている公演当たりのコストも下がるわけです。

福田:製品の開発コストはある程度一定に掛かってるわけだから、もうちょっとアウトプット出してかなきゃいけないような発想ですよね。

山口:これ、当たり前ですけど、こうやってコストが掛かってるわけですね。

福田:そう言われてみれば絶対そうですけど、売れないかもしれないみたいなところで成り立たないはずなのに成り立っている・・、ちゃんと席が埋まるのが不思議ですよね。

山口:そうですね。結局今まではチラシしか、プロモーションしてないんですよ。マーケティングはしてないというか。目の前の人にチケットを売ったり、ネットワークでチケット売るっていうプロモーションしかしていない。

福田:だから、前列1万円にするっていうことはマーケティングですよね。そういう発想、考えるということ自体が。

山口:そうですね。4P(フィリップ・コトラー教授が提唱したマーケティング理論)を考えるというか、プロダクトをグッズに変えて、プライシングを変えてプライスを変えるっていうのは、結局知らない人に売るっていうことですよね。そこでデートのマーケットに入っていくことを考えたんです。演劇が好きな人のマーケットってすごく小さいじゃないですか。でも、デートのマーケットはとても大きい。お台場とか、ヒカリエとか、ミッドタウンとか、映画館を持っているじゃないですか。そのマーケットはチラシでははいっていけない。

福田:アンケートとか、鉛筆とか、どうしていいかわかんないようなもの、もらいますよね。

山口:そうです。そういうのはコストになるのでやめて、そのかわり、劇中で「別にTwitterやってください」とお願いしました。
「アウトオブ外の世界」にアクセスするというか、中の人たちじゃなくて、外の世界の人にアピールするという見せ方に変えて、広告媒体をちょっと変えるっていう・・。もう雑誌「ぴあ」とか載せないです。そこは本当考えどころで、デートのマーケットが大きいことはわかっているわけです。映画はちょっと失礼な話、やっぱり3Dや大作以外は映画館でみるようなマーケットじゃなくなってきている。大概の中規模な作品は、ネットで見ちゃうので。

福田:そうですね。

山口:そうすると、やっぱりライブは重要だなと思っていて、演劇はデート市場を取れるんですよ。ただ、デートってリスクをヘッジしなきゃいけないから、怖いじゃないですか。ですから評判が大事というか、なんか突然、哲学的な変な劇をやられても、困るわけです。

福田:なるほど、「あなたハズしたわね」っていうやつですね、よくありがちな。

山口:そうです。ハズせないから、アナ雪とかジョージ・クルーニーとかそっち行くわけですね。

福田:しょっちゅうハズしている身としては、ハズしているものをブランディングするにはかなりの年季いりますからね。

山口:だから、もうその最低限の品質は絶対担保するっていう・・・。そこだけ気を付けてんですよ。20日間やると「あれはいいよね」という評判がバイラルになる。「あれはいい」というのは、どういう意味かというと、人(恋人候補)を連れていっても大丈夫、そこが結構重要なラインなんですよ、演劇においては。ただ、そこさえ担保すれば、あとオッケーです。4日間じゃ、批評家と友達しか行かないマーケットです。それが10日間あると、その5日間の中で拡散して、保険料が下がるというか、お客さんにとってのリスクが減るんです。だから、20日間っていうのは、すごく重要な意味があって、その20日間のリスクを取るっていうのが演劇業界において、ブランディングというか、新しいお客さんをデートという大きな市場から連れてくるためのものすごく重要なクリティカルパス(経路)だったわけです。

福田:その発想面白いですね。

山口:しかも、それをやるだけで、他の劇団と圧倒的に差別化できるんですよね。今は劇団四季と宝塚しかない状況ですが、あんな脂っこい劇は、みんな見たくないわけです(笑)。やっぱり和食も食べたいじゃないですか。実は、和食的な日本の劇団もあるんですよ。女の子連れてってオッケーで、かつ昔でいうところの、東京いい店、やれる店じゃないですけども・・。ライブはやっぱりパワフルなので価値が出て、ボルテージも上がって、さらに飲み屋が近くにあれば、デートとして十分成り立つ。 そこを改革するっていうことをやっているんですよ。全部で3つですね。プレミアムシート作って、シートの値段変えたのと、敢えて途中で休憩を入れてグッズとシャンパン売ったのと、デートマーケットに入るために、20日間押さえて、レピュテーション(評判・評価)も自らやるという。