logo

本を作って分かった、削ぎ落す難しさ

派遣から10年で巨大企業の役員へ。サクセスストーリーから読み解くもの  Talked.jp

福田:なるほど。ということは、コロナがなかったら本を出すことはなかったということですね。

二宮:はい。なかったと思います。

福田:本というメディアはSNSメディアのような分散型ではないですよね。本の中で人生の話って1回しか書けない。それ以上に本を出しちゃうと次はもうプロの物書きの世界だし、そういう表現媒体をニノさんは選ばない気がする。だから、みんなこれ読んで欲しいなぁ。僕は読む前に、目次を見ただけで興奮して、もう読み終わった気になってしまいました。「これってきっとドラマ化、映画化されるよね」って。だってみんな好きじゃないですか。半沢直樹的な、成功ストーリーは。

二宮:今回、初めて本を書いてみて、その難しさが分かりました。ストーリーって、いろんな人がいればそれだけ見える観点が違うはずなのに、本はプレゼンと同じように、1つのストーリーを構成して、その中でまとめていく作業ですよね。たとえば幹に枝葉を付けて、大事な要素を切らざるを得ない部分が出てくるんですが、その辺の判断が難しかったです。僕の一端はたしかに出ているけれども、ここには書かれていないこともゴマンとあるんですよね。

福田:もちろん、そうですよね。

二宮:で、実はそれがとても重要だと思うんですよ。出版の目的核が、どちらかというと成長ストーリーみたいなものになるとすると、やっぱりそのストーリーラインに合わせたものが、感情の流れに合わせて選ばれると思うんです。だから僕は、「何とか術」っていうマニュアルや実用的な要素はこの本の中にはあまりないと思っていて。その人が大事と思ういくつかの構成要素がまんべんなくあって、それぞれいかにして改善を繰り返していったか、経験していったのかっていうのを読んでもらうことが重要だと思うんですね。その部分を読み取ってもらおうとすると、成長ストーリーだけではどうも収めきれないっていう気がして。

福田:本っていうのは、結局成長ストーリーや1本の物語にしていかないと受け入れられない部分があります。その時々の「成功・失敗・検証・仮説」に対してまた検証があって、事象があって…という中で、やっぱり削ぎ落していくべき部分も当然出てくる。

二宮:そうですよね。

福田:でもこの本は、時間軸に沿ってうまく削ぎ落されていると思うんですよね。「ドラマ化するんでしょ?」と言ったのは、「それを狙っているんでしょ?」ということではなくて、「そういうものを求める時代」について考えてみたいんですよ。

本当の人生って、そうわかりやすい物語のようにはなっていない。自分が神の視点に立ってストーリを完結できるから神話になるというか…。そうやって物語を作っていくわけじゃないですか。誤解を恐れずに言えば、日本では多くの人が会社勤めのサラリーマンを選択しているから、そんなに波乱万丈でドラマティックなストーリーって、そうそう起こらないと思うんです。元レクサスブランドマネジメント部長の高田敦史さんが書かれた『会社を50代で辞めて勝つ! 「終わった人」にならないための45のルール』(集英社) という本が興味深いです。タイトルも素晴らしいけど、大企業を辞める時のテクニックが赤裸々に書かれています。普通に辞めるって言えば良さそうなものですが、日本の企業で管理職クラスになると、そんな簡単にはいかないから。

二宮:そうなんですよね。実際に僕も、(大塚グループを)1年かけて辞めました。

TOPへ