伝説のプロモーターが読み解く「エンタメの未来2031」(後編)

伝説のプロモーターが読み解く
「エンタメの未来2031」
(後編)

編集・構成:井尾淳子
撮影:越間 有紀子
日程:2022年1月20日

北谷 賢司 (写真/左)

米ワシントン州立大学レスター・スミス栄誉教授、同大学財団理事、金沢工業大学虎ノ門大学院教授、同大学コンテンツ&テクノロジー融合研究所所長。ワシントン州立大学卒、ウイスコンシン大学マジソン本校大学院にて通信法、メディア経営を専攻し、1981年に博士号を取得。ワシントン州立大学助教授に就任、放送報道、制作、経営を担当後、インディアナ大学に招聘され、テレコミュニケーション学部経営研究所副所長を務めた。学務と並行し、日本テレビ、TBSで国際事業顧問を務め、TBSメディア総研取締役、TBS米国法人上席副社長、東京ドーム取締役兼米国法人社長、ソニー本社執行役員兼米国ソニーEVPを経て、33年間滞在した米国から2004年に帰国。ソニー特別顧問、ぴあ社外取締役、ローソン顧問、エイベックス国際ホールディングス社長を歴任。1990年代に東京ドーム招聘興行担当役員としてNFL、NBA、ローリング・ストーンズの興行を日本初開催、U2、マドンナ、マイケル・ジャクソンほか多数のアーティストを招聘した。博士号を持つ伝説のプロモーター「ドクターK」として世界的に著名。2018~2019年にセリーヌ・ディオン、エド・シーランの来日ドーム公演も、米大手ライブエンタメ企業、AEGのアジア担当EVP、日本代表として手掛け、同社の名古屋、大阪のアリーナ建設権の取得にも寄与した。インターFM897取締役、三菱商事都市開発特別顧問、FM東京顧問、ブロードメディア監査役も務める。主な著書に『エンターテインメント・ビジネスの未来2020-2029』『同ポストパンデミック編』(日経BP)『ライブ・エンタテインメント新世紀』(ぴあ総合研究所)『人を動かす力、お金を動かす力』(サンマーク出版)など。2021年11月に最新著書『エンタメの未来2031』(日経BP)を上梓。

福田 淳(写真/右)

スピーディ・グループ C E O
金沢工業大学大学院 客員教授 / 横浜美術大学 客員教授 ソニー・デジタルエンタテインメント社 創業社長 1965年 日本生まれ / 日本大学芸術学部卒
企業のブランドコンサルタント、女優”のん”をはじめ俳優・ミュージシャンなどのタレントエージェント、ロサンゼルスのアート・ギャラリーSpeedy Gallery運営、エストニアでのブロックチェーンをベースとしたNFTアート販売、日本最大のeコミック制作、日本語、英語圏での出版事業を主なビジネスとしている。
その他、スタートアップ投資、沖縄リゾート開発、米国での不動産事業、企業向け“AIサロン‘を主宰、ハイテク農業、ゲノム編集による新しい食物開発など"文明の進化を楽しむ"をテーマに活動している。
カルティエ「チェンジメーカー・オブ・ザ・イヤー」、ワーナー・ブラザース「BEST MARKETER OF THE YEAR」など受賞。著書、講演多数。
公式サイト:
http://AtsushiFukuda.com

ハリウッド作品は撮影でズームを使わない

福田:お話を伺うと、日本の映画や放送は、市川崑の時代を考えたら、もう演出技術的なレベルから落ちているという。本当に、おっしゃるとおりかもしれません。

北谷:日本の場合、テクノロジーはすごく進んでいるんですよ。でも、ハードではなくソフトの部分、製作の手法の部分が、テレビが豊かになった30年から40年の間に全部希釈されてしまった。日本映画の基礎を作った名監督が把握していた作り方、撮り方が受け継がれていない。だから撮影は撮影監督のカメラマンに、編集は編集者に任してしまっている。監督と呼ばれる人は、たしかに現場にはいますけれど、ほとんどの人は俳優に演技指導をしているだけ。それって本当に監督なの?ということなんです。

福田:キューブリックなんか、地面に穴をほってみたり、いろんな方法を試していたわけですよね。

北谷:それも自分でね。自分でいろいろなアングルを紙に書いて、頭の中で「次のフレーミングはこうしよう」「背景はこうだ」「カメラの振りは右から左だ」など、全部決めているわけです。そういった監督は基本的に、ズームを使わない。日本と海外作品の大きな違いのひとつは、日本のカメラマンはすぐに、ダリーイングとも言う、ズームを使う点です。大切な基本は、ズームよりもトラッキングを使うこと。「アーキングを使う」と言うんですけど、カメラのペダストル(台座)そのものが動いて役者に寄ったり離れたりする。これが基本です。ハリウッドの作品ではほとんど、撮影にズームは使用していないですよ。

福田:確かに日本はズームを乱用しすぎでチープですよね。Netflixで配信される日本のドラマを観ると、「この作品が韓国ドラマの『イカゲーム』と並んだ棚にある」という意識を果たしてもっているのだろうかと思ってしまいました。Netflixで作られているドラマの作法を全然考察してないから、地上波と同じ感覚で作っています。1エピソードごとに盛り上がりをつけたり、最終話を長尺にしたり、視聴者が「イッキ見」してる時代に、意味がない作り方なんですよね。「次週に続く」のクセから抜けてない。

北谷:Netflixのオリジナル作品は、コマーシャルの寸前のところで、クリフハンガー(盛り上がり)を作る必要はありません。だから脚本にも深みがある。けれど日本のテレビ製作はどうしても、CMの前に何かを盛り上げなきゃいけない。英語で言うところの「チョッピ―感覚」で、何か切り刻まれたものを感じる作品になる。10分から15分ごとにCMを意識しすぎて、要は作りすぎるわけですよね。一方でNetflixオリジナルは1話完結シリーズでもテレビを想定して作っていないから、内容が非常に濃いし、安心して観ていられる。

福田:なるほど…。

北谷:そういうところから学びなおしていかないかぎり、日本はやはり、グローバルマーケットに戻れないという危機感を感じますね。

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