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デジタル貨幣はどこにも存在していない

暗号貨幣から「経済の多層化」社会へ(前編)   Talked.jp

福田:ブロックチェーンの仕組みはかなり不完全だ、ということがよくわかりました。でもこれだけ普及してしまった状況で、何かの決済だとか、通貨として実際に役立つ可能性はないのでしょうか。

中村:「仮想」ではなくて、「コミュニティ通貨」とか「地域通貨」というかたちで、きちんとした技術でやり直すならば十分可能ですね。そして、ぜひやってほしいと思っています。 1976年に刊行された『貨幣の非国有化』において、著者のフリードリッヒ・フォン・ハイエクは、貨幣発行の自由化を主張しました。ハイエクが唱えたのは、「貨幣なんていうものは、誰が発行してもいいんじゃないの? 国家だけの専権じゃないでしょう」ということです。誰が発行したとしても、信用されていない貨幣なんて誰も使わない。だからそれで競争すればいいんじゃないかということですね。それについては私も昔から賛成で、誰もが貨幣を発行できるといいなとは思っていたのですけれど、おもちゃの子供銀行券じゃしょうがないでしょうね。コピーもできてしまうし。

福田:流通しないのではしょうがないですもんね。

中村:ええ。そこで「現在、実際の貨幣の発行手段には何がありますか?」というと、日本銀行が発行する紙幣ですよね。それから、財務省造幣局が発行している硬貨。つまりこの2つしか、技術的に可能なものがなくて、デジタルの貨幣は存在しなかったんです。で、いまだにどこにも存在しない。それをやろうとしたのが、先述の1983年に出てきたデイビッド・チャーム博士で、その博士が世界で初めて、デジタルのキャッシュを作ろうという動きを始めた。しかし、申し上げたように脆弱な暗号を使ったがゆえに、偽造・不正使用されてしまった。偽造・不正使用されてしまったら、やっぱりそれは貨幣としては使えないですよね。ないことはないけれども、誰も信用しない。ということで消えていってしまいました。つまりデジタルの貨幣は今どこかに存在しているように思っている人がいらっしゃるかもしれませんが、まだどこにも存在していません。

福田:それで中村さんは、完全暗号であるコンプリート・サイファー(*6)をベースにしたクリプトキャッシュを開発されたのですよね。

中村:厳密に申しますと、発明はクロード・シャノン博士になります。博士が1949年に書かれた論文の中に……「情報理論的安全性に基づいた」という言い方をしますけれど、情報理論的に、つまり論理的に、数学的に解読ができないことを証明された初めての暗号が出てくるわけです。ただ、この暗号自体を作ったのはシャノン博士ではなくて、さらにさかのぼること1918年、第一次世界大戦末期の頃にバーナムという人が作りました。「バーナム暗号」というのが正式名称です。このバーナムさんの作ったものを、シャノン博士の論文の中では「ワンタイムパッド」と呼んでいます。

(*6)コンプリート・サイファー(Complete Cipher)「暗号鍵がない場合に理論的に解読不可能な暗号アルゴリズム」に加えて、「暗号鍵の配送問題」を実用的に世界で初めて解決した完全に安全な暗号技術。

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