対談  青江 覚峰 氏 × 福田 淳 氏 | Talked.jp

仏教はニーズ(苦)とウォンツ(欲)の違いを教えるもの

青江 覚峰 氏

浄土真宗東本願寺派緑泉寺住職。1977年東京生まれ。
カリフォルニア州立大学にてMBA取得。料理僧として料理、食育に取り組む。日本初・ お寺発のブラインドレストラン「暗闇ごはん」代表。超宗派の僧侶達が集うウェブサイト「彼岸寺」創設メンバー。

福田 淳 氏

実業家。ソニー・デジタル エンタテインメント 社長。
1965年生まれ、日本大学芸術学部卒。ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントでアニメチャンネル「アニマックス」など多数のニューメディア立ち上げに関わる。

構成:福田千津子 撮影:越間有紀子

2014年12月15日(月)

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寺はプラットフォーム、仏教はコンテンツである

「死の体験旅行」は超人気プログラム

青江:マーケティングでもう一つすごく気を付けているのが、「こんなことやっていいのか」って言われても揺るがない姿勢です。「お寺でお坊さんと話そう」っていう企画を出すと、絶対言われるんですよね。でも実は、もうそれこそ1600年、700年前ぐらいからやっていることなんですよね。お釈迦さんがいた頃からと考えればもう2000年前から当たり前のように続いていたことなので、「何か問題がありますか」って話したんですよね。

福田:どこが問題だったのでしょう

青江:結局、見せ方として、「こんな派手なことはけしからん」ということなんですよね。でも、金閣寺とか銀閣寺とか、世界的に見てもド派手できんきらきんの本堂持ってるのに何を言うんだろうっていう話なんですよ。

福田:これだけ派手なプレゼンテーションないですよね。

青江:ただ派手に見える部分も、全部理屈は通っていて、昔からこういうことがあって、今の仏教で必要なものを伝えるためにこういう見せ方にしていますっていうことなんですね。

福田:しかも行われているプログラムが、歴史にのっとったすばらしい作法であるとか、伝統文化をちゃんと理解してもらう内容になってたりとか、有意義なものが多いじゃないですか。

青江:まさにそうですね。

福田:「死の体験旅行」っていうの、これもすごい人気ですよね。

青江:これは実は終活とは真逆で、自分の大切にしていること、大切な人、大切な物、道具ですね。あと大切な自然、あと大切な物事、自分がいつもやっていること、仕事であったりとか、趣味であったりとか、そういったものを5個ずつ20書くんですね。ストーリーテラーのお坊さんが、これがまた低くて渋い声の持ち主なんですけども、こんなふうにいいます。「君たちがきょう帰ってみると、この間会社で受けた健康診断通知が返ってきていました。そこには緊急で連絡をくださいと書いてありました。連絡をしてみたところ、1週間後にすぐ病院に来て再検査が必要です、とあります。再検査をすると、また1週間後に連絡が来て再々検査が必要です。それで検査を受けて、大丈夫かなと思って不安になっていると、今度は1週間待たずに3日後に連絡が来て、明日家族を連れて病院に来てくださいと。悪い知らせなのかなとドキドキしながら、その日を迎えました。このときに今、手元にある20枚のうちの1枚を捨ててください」。
 で、ポストイットみたいなものが20枚あるんですけども、その中の1枚を握りつぶしてクシャクシャにして足元に捨てるんですよ。初めはなんかiPhoneとか、別にいいやって簡単に捨てられるんですけども、最後のほうになると、僕だったら、もう妻と3人の子どもと、あとは仏さまとか、絶対に捨てられないものだけになるんですよね。しかも握りつぶして捨てなければいけない。死の体験旅行なので、ロールプレイでありながらも、すごく緊張して手も冷たくなるし、あぶら汗もかいてくる。これを繰り返して、だんだんガンが見つかって、ステージが移行して、終末医療に移って、最後ついに1枚が残ります。そのときに「深呼吸をしてください」って言われるんです。1回2回3回、そして最後に大きく吸ってゆっくりと息を吐きます。そして、「それがあなたの人生最後の息となります。はい、残った1枚も床に投げ捨ててください」って、そういうストーリーなんですね。そこまでして「最後に残ったのはなんでしたか?」っていうのを一人一人に聞いたり、グループでディスカッションをしたりして。「でも実際は今、あなたたちは少なくともさっき渡した20枚は手に持っています。つらい思いをしながら、身を切るように捨てた20枚なのに、毎日大切にしていますか?」っていう問いとともに終わるんですよ。

福田:プログラム自体がとても面白いですね。

青江:ズーンときちゃうんですけども、そういう体験があって。だからFunではないんです、決して。あくまでもInterestingっていうものを突き付けていこうというのが目的なので。書道にしても、普通に「はい、書きましょう」っていうと、うまい字を作るんですね、みんな。きれいに書きたいスキルアップの感じなんですけども、もう正反対で。たった1時間でスキルアップするんだったら、書道の先生なんか必要ないでしょうと。じゃなくて、福田さんだったら福田さんが今、自分の中で何が一番気になっているのかを整理していくんですよね。対話をしながら整理をして、それを漢字一文字で表すんです。自分にとって今、一番興味のある漢字は何だろうって。そしたら、それが例えば風だったとします。で、なんで風なのかを、今度は徹底的に突き詰めていくんですよ。風っていうイメージの中には、それこそ自由な風もあれば、激しいのもあれば、あとは無風に近いようなそよ風もあるんですよね。自分にとっての風ってどういうイメージなんだろうっていうことをずっと考えてみると、そのイメージの風っていう文字を表現してみましょうっていう。書道のプログラムなのに、実際に字を書くのは本当最後のほうだけなんですよ。