対談 中邑賢龍 × 福田淳

社会は“公平性”の名の下に多くの人を差別してきた

福田:アナログ感と通じるところがあるかもしれないですけど、最近気配を感じられる子が少なくなってきていると思うんです。
先日ある会社にお邪魔したら、お昼時に上司が「みんな飯食ったか?」って部下に言っていたんですね。で、僕らの時代なら「あ、じゃあ昼飯行きましょう」って答えると思うんですけど、でもそこで聞かれた部下は一言「行ってません」と。確認になっちゃってるんですよね。そこは「飯食ったか?」「じゃあ行きましょう」だと思うんです。会話をうまくショートカットできないんですよね。僕はメールやネット文化の弊害かなって思うんですけど。

中邑:人は答えを求めて質問しているんじゃないってことがわからないんですよね。「お金持ってる?」って聞くと「持ってない」って答えるヤツばかり。
「何か困ってるのか?」とか「大変なのか?」って、相手の気持ちを読んで答えればいいのに、そこで会話が切れちゃうんですよ。
でも一方で、メールやネット文化から育っていく子もいると思うんです。僕は、人には聴覚型と視覚型、2つのタイプがいると考えています。電話の方がコミュニケーションが楽だって人と、メールの方が楽だって人ですね。
ウチでは発達障害や精神障害などのある、いろいろな人が働いているんですが、彼らの中には以前働いていた会社をクビになった人もいて、その理由の1つが無断欠勤なんです。で、なぜ無断欠勤したのか聞くと、「調子が悪くて、朝、電話をかけられなかった」と。今でもまだ、電話じゃないと欠勤連絡を受け付けてくれない会社が多くあるんですよ。そこで「欠勤連絡はメールでもいい」っていうルールを決められれば良いんだけど、だけど電話で欠勤連絡するのが当たり前と思っている人たちは、音声でコミュニケーションできる人たちで、できない人たちの辛さがわからない。
もちろん視覚型の人も無理のない範囲で自信をつけて音声の方に入っていけばいいんだけど、今の社会は「対面で、音声でコミュニケーション」って考え方が根強く残っているから、うまくいかないんです。だけどそういう人たちはいっぱいいて、その人たちが絶えると社会も困ると思うんですよね。だからLINEやチャットだけでコミュニケーションを育ててきたような人たちに、ネットの中で音声でのコミュニケーションを教えていくようなプログラムがあればいいんですけどね。

福田:先日Yahoo!知恵袋で、「世の中弱者ばかりで進歩が遅れていると思うんですけど、どう思いますか?」って質問をしている人がいて。その回答が本当にスマートだったんですけど、「みんなが強かったら人類は維持できなかったと思う。みんなターザンだったら服は要らなかったけど、誰かが寒いって言ったから服が要るよね、となった。常に一番弱い部分を補完してきたから文明がある程度進化してきたんですよ」と。誰が答えたかわからないですけど、これは素晴らしいと思いました。「弱者に優しく」とかいうスローガンを言っても、頭に入ってこないじゃないですか。でも「寒かったらカーディガンいるよね」とか「風邪をひいたら起きられないよね」とかならわかりやすい。こういう風に世の中に伝えていくプログラムは大事ですよね。先生はそれこそいろいろなプロジェクトを通じておやりになっていると思うんですけど。

中邑:たとえば1つ、「DO-IT Japan」(*2)っていうプロジェクトがあって。10年ほど前、手が不自由で鉛筆が持てない子に、パソコンでの文字入力を使って大学を受験させようとしたら、大学側にそれはダメだと断られたんです。「漢字変換機能が入っているからダメだ」と言って、「使うならマウスで字を書け」と。もうそれを聞いて腹が立ってね。でも誰もおかしいとは言わないんです。
そこで、こういう子どもたちにパソコンやタブレットを配って受験できるようにしよう、世の中に騒動を起こしてやろうと思って始めたのが、「DO-IT Japan」なんです。
で、その結果、今年大学入試センターは、ディスレクシアという読み書きの学習障害を持つ子に対し、読み上げ入試を認めました。神奈川県の県立高校では、書字障害(ディスグラフィア)の子どもにパソコンの持ち込み入試を認めました。もう門戸は開かれ始めています。

福田:テクノロジーが人の役に立たないのであれば、何の意味があるのかと思いますよね。たとえば映像業界は、8mmからVHS、PCの登場やブロードバンド、3DCGと、テクノロジーの進化を巧みに使ってきました。ところがこれが学校になると、スマホは持ち込んじゃいけないとか、本当は応用できる部分がたくさんあるのに、それを一切活用しない。これはすごく不思議ですよね。

中邑:公平性という名のもとに、実は多くの人たちを差別してきたんです。テクノロジーを使うなら、みんな公平に使わないといけないと。でもそこでテクノロジーを本当に必要としている人にその使用を認めないことは、もっと大きな差別を生んでいるんです。
僕は、テクノロジーは人を揃えるものだと思っているんです。スタートラインを一緒にする。そのために利用すべきだと思います。もちろんもうひとつの考え方として、人の能力を増強する、エンハンスするという機能もありますけどね。

福田:義足とか義肢とか、3Dプリンターのおかげで素晴らしくフィットしたものができると聞いています。もしかしたらその人の能力がより増すような、サポーティブな器具が新しいテクノロジーによってできるんじゃないでしょうか。

中邑:今、遠藤謙さんというMITのメディアラボを卒業された人が、元五輪選手の為末大さんなどと「Xiborg(サイボーグ)」っていう会社を作って、義足を開発してパラリンピックでオリンピックの記録を抜こうという研究をやっているんです。あれはまさにそういう考えですよね。

(*2)DO-IT Japan
障害や病気を持つ小・中・高校生や大学生の高等教育への進学や就労への移行を支援し、将来の社会のリーダーとなる人材を養成することを目的としたプログラム。「テクノロジーの活用」を中心的なテーマに据え、「セルフ・アドボカシー」「障害の理解」「自立と自己決定」などのテーマに関わる活動を行なっている。 webサイト:http://doit-japan.org/