対談 中邑賢龍 × 福田淳

人やモノの価値を結び付けプロデュースする人材の育成も

福田:昨年Variety誌がアメリカの13歳~18歳の若者に最も影響を与える著名人を調査したら、トップ10のうち上位5人がYouTuberだったんです。もう彼らの中での評価は変わってきているんでしょうね。
モノの価値観も変わってくるかもしれません。先日電通の並河進さんが「WITHOUT MONEY SALE」という、お金ではモノを売らないセレクトショップサイトを立ち上げられたんです。このサイトは、たとえば宮崎県の幻の梅干しが出品されたら、梅干し愛を綴ったり、梅干し作りを学んだり、梅干しを盛り上げるアイディアを提供したりした人が商品を貰えるという仕組み。つまりモノの価値を貨幣だけじゃなく、多様な価値観で計っている。こういう価値の変化も進めばいいなと思っています。

中邑:人やモノの価値を結び付けられるプロデューサーが、世の中にもっと増えてくるといいですよね。
すごく感動しているものがあって、鹿児島県に重度の知的障害や自閉症の方が利用される「しょうぶ学園」という施設があるんですけど、ここで「nui project」というプロジェクトをされているんです。そこでは障害のある人が手作業で刺繍をしていて、それはすごく綺麗なんですけど、でも刺繍って買って日常使いするかというと、使わないじゃないですか。だけどしょうぶ学園は芸術系の職員が多くて、この刺繍を素晴らしいシャツに仕上げているんですよ。で、それを1枚3万円とか4万円で売っているんです。
1枚の完成までに2年くらいかかる本当に美しいものなんですけど、でも施設のギャラリーに飾っても、刺繍を作った本人たちは誰1人見に来ない。施設長が言うには「あの人たち、美しさなんてわかんないんだよ」って。だけど「好きなんだよね。にこにこしながら縫ってる」って話されるんです。彼らにとって一番喜ばしいのは刺繍やシャツを飾ってあげることじゃなくて、シャツが売れたお金をもらって、それでアイスクリームを買って食べること。つまり見ている方向や、好きなことが違うんです。引きこもりの子だったり障害のある人だったり、そんな風にいろいろな人たちの素晴らしいところを見出して、形に仕上げていく――そういうことができる人がもっと増えるといいと思っています。