対談 漆紫穂子 × 福田淳

生徒のためにとって、「生きた社会学習」になった企業コラボ

福田:品女といえば、企業コラボの取り組みも、大胆な変化の大きなひとつですよね。そもそもこれは、どういうきっかけで始まったんでしょうか。2004年のサンリオとのコラボによる「品女キティ」(*2)の販売が最初ですよね。

漆:ええ。企業とのコラボはサンリオさんが最初ですが、学校主導ではなく、生徒たちが始めたことなんですよ。社会科の授業で「内戦地域では、きちんとした教育がなされないために恨みの連鎖が続いて、戦争が止まない」と、学んだ子どもたちがいて。一方でそれとはべつに、「金融経済教育」の授業がありまして。そちらでは株式学習をやって、子どもたちがポートフォリオを組んでバーチャルで投資するんですね。そのとき、近所の上場企業を取材するということで、サンリオさんにインタビューをしまして。最初の内戦地域の授業と、企業のインタビューが結びついて、「サンリオさんと生徒が作った商品の利益を寄付にして、内戦地域に学校を造ったらどうだろう」というアイディアが、子どもたちの側から出てきたんです

福田:まったく学校主導ではないし、授業の内容からしても先進的だと思います。

漆:私はすでに生徒が進めているところで報告を受けたんですが、「いいことだから、まぁやらせてみよう」と。でも子どもの知恵なので、1年目はあまり売れずに、結果としてその子たちも卒業しなきゃいけなくなっちゃったんですね。それで私のところに生徒が相談に来まして、「後輩に次を募りたいから、全校放送をさせてくれ」と。じゃあいいよということで、生徒が全校放送で呼びかけた結果、後輩でやりたいという子どもたちが出てきたんです。結局3年ぐらい引き継いでいって、いわゆる成功曲線ががんと上がるところがあり、お金が集まったんです。自分の著書の印税や、出資して下さる大人の方の協力もあって、実際の売上と両方のお金合わせたら500~600万になって。

福田:文化祭で販売して、売り上げをNGO「カンボジアに学校を贈る会」に寄付すると言っても、それを実現させるまでの相当大変なことだったんですよね?あとサンリオとのコラボの直後、2005年にはポッカコーポレーションさんとも組まれてますよね。

漆:そういう流れが、たまたまできたんですね。ポッカさんのほうは、当時の内藤由治会長とお話をさせていただいたときに、「これからは女性の活躍が必要だ」という話題になりまして。そこで、うちは女子校だし、将来のロールモデルということで、ポッカの女性社員の方に、出張授業をやっていただけませんかとお願いしたんです。そうしたら最初の出張授業で、マーケティングの勉強をして、「実際に商品を考えてみましょう」ということで、授業の教材として行ったんです。そうしたら、意外と面白いものができたので、「じゃあ今度は、生徒がそちらに出向いてプレゼンしてみましょう」ということになって。結果として、女子高生がプレゼンをしたことで、企画が通ったんですよね。それが「桃恋茶」(*3)という商品で。先方が上手に広報して下さったこともあって、1週目の週販では、当時松嶋菜々子が宣伝していた生茶を抜いたんですよ。

福田:すごいですね「桃恋茶」!企業からすると、話題性もあったんでしょうけども、「女子高生の企画した商品」というコンセプト自体が面白かったのではないですか。

漆:そうなんです。そういう流れを見ていて、偶然の産物ではあったけれど、サンリオさんもポッカさんも、生徒にとっては本当の意味での生きた社会勉強だし、リアルな体験になったと感じましてね。桃恋茶が工場から出荷されていくのを見た生徒たちが、「まるで自分の子どもみたい」と言って、泣いたんですよ。「一つの商品を作るために、どれだけ多くの大人が大変な思いをしているのかがよく分かったから、全部売れてほしい」と。それを聞いて、こういう体験は、全生徒にさせたいと。それから、学校として「総合学習」という授業の時間を使って、全員が企業とのコラボレーションに参加するという仕組みを作りまして。もう、かれこれ10年近く経ちますね。

(*2)品女キティ
品川女子学院の生徒とサンリオとのコラボレーションで生まれたマスコット人形で、「中等部キティ」「高等部キティ」の2種類があった。2007〜2008年の文化祭にて販売。販売で得た利益は『NPO法人ASACカンボジアに学校を贈る会』(ASAC)を通じて、カンボジアの子どもたちの学校建設に寄付され、2009年カンボジアコンポンチャム州に小学校を寄贈。

(*3)桃恋茶(とうれんちゃ)
2007年に品川女子学院の生徒とポッカコーポレーションとの共同開発で生まれた商品。商品コンセプトからパッケージデザイン、販売促進用のポスターまで、同学院生のアイデアを生かしたことで話題を呼んだ。

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