『ソーシャルデザイン入門』 電通ソーシャル・デザイン・エンジン代表並河進氏×実業家 福田淳の対談@成蹊大学【前編】

新しい肩書をもつ。すると働き方は、もっと自由に、面白くなる

並河:今、僕の周りにいる面白い人たちは、新しい肩書を持っている人ですね。それは会社に所属しているか否か問わず。「30年後に今ある仕事は減る」とよく言われていますけど、減るということは、新しい仕事も生まれるわけで。そう思うと、正社員でもフリーランスでも、大企業でも小さな会社でも、新しい肩書をもつことは、これからの時代、ひとつの突破口を作るんじゃないかと思います。例えば僕の肩書は一応コピーライターで、商品のキャッチコピーを書くのが仕事ですけど、そうすると「コピー1本幾ら」みたいな話になってしまう。でもそれが、ちょっと違う肩書を名乗ることによって、違う仕事の発注が来たり、あるいはその肩書には値付けがされていないから、すごく高い価値を認めてもらえたり、という可能性もあると思うんです。僕が最初にやったのは『下駄箱のラブレター』(ポプラ社)っていう本での試みなんですけども。

福田:面白いですね。それはどういう試みですか。

並河:いろいろなラブレターをまとめた本で、僕がラブレターの書き方を指南するという、つまりラブレターのマニュアル本ですね。コピーライターながら、「ラブレターライター」や「ラブレター評論家」を自称して、いろいろな人にラブレターの書き方を教えることで生計を立てていくのはどうかとか。そういうふうに思って活動を始めたんですけど、「ラブレターを書き直してほしい」みたいな仕事は、あまり来なかったですね。

福田:なぜでしょうね。「教わらなくても、自分で書ける」と思っちゃうんでしょうか。

並河:どうなんですかね。ちょっと恥ずかしかったりもするのかもしれない。ただ、そういうのを名乗ってみると反応も分かりますよね。たとえば自分の仕事が「マーケッター」だとしても、あえて、ただのマーケッターじゃなくて、何かと掛け合わせてみるとか。自分で自分の職業を決めたほうが自由になったり、面白くなったり。「ラブレターライティング」なんて値段がないので、もしかしたら1回1000万円かもしれないじゃないですか。本当にすごく効くものだったとしたら。

福田:面白いです。クラウドソーシングも、「Googleのテキストをたくさん書いたら小銭になりますよ」っていうことじゃなくて、個人のスキルがもっとバラエティーに富んでいて、自分の毎日が「ぜんぶ副業」という状態になれば、すごく豊かだと思うんですね。会社で9時5時まで誰かの言うことを聞かなきゃいけない、なんて思っているようでは、20世紀的な生き方なわけです。先日、あるアパレル企業の社長さんとお話しした時に、「すべてのスタッフの副業ありにしようかな」とおっしゃっていましたが、それって最高だと思うんですよ。服を売っているんですけど、週の半分ぐらいはサーフィンやっていますとか、ソーイングしていますとか。大きな企業に勤めていても、不満ばっかり言っていて、自分の思うとおりにならないという人には、「いや、どう考えてもあなたの思うようにならないよね。1000人も社員がいて思うようになるわけないじゃん」と言いたいです。「たぶん、社長さんだって思うようになっていないと思うよ」って(笑)

並河:価値があるものとないものが、いつのまにか社会の中で、勝手に決まっていたりしますよね。僕はソーシャルデザインが専門なので、ときどき、小中学生対象に、社会を良くするプロジェクトを考えるワークショップの先生役をやったりするんですけども、その時にどんな社会課題を良くしたいかっていう課題にもう一つ加えて、自分が得意なこと、好きなことを書いてみようみたいなことをすると、すごく面白いです。この間、1人の小学生が「アイスの棒を集めるのが得意」って書いてきて。

福田:いいですね。

並河:そう、「これ、いいね」と。アイスの棒を集めるその能力を生かして、社会を良くするにはどうすればいいのかを話し合ったりして。