『ソーシャルデザイン入門』 電通ソーシャル・デザイン・エンジン代表並河進氏×実業家 福田淳の対談@成蹊大学【後編】

自分のスキルを提供して、
社会を良くする「プロボノ」の可能性

福田: あとはどういう実践例がありますか。

並河:最近だと、Yahoo!のプロジェクトで「Search for 3.11」(*2)という、震災の後の風化を防ぐために3月11日に「3.11」を検索するとYahoo!が東北の復興支援活動に寄付をするというプロジェクトをお手伝いさせていただきました。1人1回検索すると10円の寄付につながる、検索するだけで応援になるというものです。「検索することで震災や東北のことを思い出す」行為につながるんじゃないかということで生まれたプロジェクトです。

福田:大切なのは、機能だけじゃなくて、潤いの部分ですよね。デジタルマーケティングというと、全部SEO対策やリスティングとか、いかにGoogleで上のほうにくるかっていうような、無味乾燥……といったら怒られるかもしれませんけども、そういうところばかりフォーカスされていましたから。検索することによってどうなるのか、っていうところにストーリー性があって、面白いですよね。
あとは、ガーナの児童労働の取り組みもありましたよね。

並河:これは映画を作ったプロジェクトで。どんな映画かというと、高校生、大学生の女の子3人がガーナに行って、そこでいわゆる児童労働の現実を知るという。

福田:チョコっておいしいですけど、実は、子どもが労働させられて、つくられているケースも多いんですよね。

並河:そうですね。カカオ豆の採取に子どもたちが駆り出されています。「ACE」というNGO(*3)が「こういう問題を知ってほしい」という活動をしていて。児童労働ってなかなか難しい問題なので、わかりやすくするために映画にしようっていうことから、『バレンタイン一揆』っていう映画を作りました。実施上映会をあちこちやっているので、ぜひ見てほしいんです。事例を挙げるとすごくいろいろあるんですけど。この間、数えてみたんですよ。自分がこの10年、どれぐらいのプロジェクトをやっているか。そうしたら、約70個でした。約70個のプロジェクトを、とにかくひたすらやってきました。

福田:この間、会社の謝恩会で最後に締めのあいさつをしたんですね。社長のあいさつというと、「今年1年ありがとうございました。みんなよろしくね」みたいなことで終わるんですけど、性格なんでしょうかね。舞台に上がると、急に何か言いたくなるんですね。長くしたくないんですが、突然、安倍内閣に対する怒りが沸き起こって。

並河:謝恩会のあいさつのときに?!ですか。

福田:はい。社内では去年くらいから言っていたんですけど、「われわれは何のために社会人やっているんだろう」と。みんなで一生懸命頑張って稼いで、社会のために役に立ちたいんですよ。でもその結果、法人税を払って、それが安倍内閣によって無駄にバラまかれて、何か使い方を間違っているなと。福島では、いまだに家に帰れない人がいるのにとか、そういう怒りが急に湧いてきて、もっと営利活動だけじゃなくて、プロボノに投資しようと思いました。
志は高いけれども資金力がないNPOとか、デザイン力がない、クリエイティブが欠けているとか、いろいろなNPOの人たちに自分たちのスキルを提供することによって、もう直接社会に対してコミットしていきたいと考えてます。
多少忙しくなるかもしれないけど、会社も個人もお金を内部留保して貯めるのではなく、うまく世のために使って流通させることで、社会が劇的な良くなると信じてます。そういうプロボノの重要性ってどうですか。

並河:僕も全部で15ぐらいのNPOのコミュニケーションのお手伝いをやっていて。でも、切りがないですよね。日本全体で、確か5万ぐらいのNPOがあるので。これだけ土日をつぶしてがんばっていても、15団体なので、5万のNPOのお手伝いは到底できないので、最近はメソッドを教える側に行こうと思っていますね。自分の個人の活動として、NPOの方々を集めて、「ソーシャルコピー講座」という、伝え方の授業を今年8月に始めまして。今まで4回やったんですけど、そういう自分のスキルを生かして、社会に対してできることを考えていきたいなと。

福田:大事ですよね。今、「経営にデザインを持ち込め」とか言いますけど、デザイニング経営みたいなものの、なんとなくかっこいいイメージは分かりますよ。でも、具体的に何をするのかは、よく分からないじゃないですか。だから僕の場合は、NPOのお手伝いをする時には、「ネットのマーケティングの会社をやっている」という観点でまず入るわけです。そうすると、「スマホ最適化していないな、このサイト」とか、「ごちゃごちゃして読めない」とか、改善点が見えてくるんですよね。。

並河:気持ちがたくさんあるからこそなんですが、かえって伝わりにくくなっていることが多いですよね。

(*2)3.11検索は応援になるSearch for 3.11
ヤフーで「3.11」というキーワードで検索した人ひとりにつき10円をYahoo!検索から被災地の復興支援に携わる団体に寄付するプロジェクト
http://search.yahoo.co.jp/searchfor311/2015/

(*3)子どもを児童労働から守るNGO ACE
インドやアフリカ・ガーナなどで子どもを支援し、児童労働の撤廃と予防に取り組む国際協力NGO。
http://acejapan.org/