『ソーシャルデザイン入門』 電通ソーシャル・デザイン・エンジン代表並河進氏×実業家 福田淳の対談@成蹊大学【後編】

ソーシャルデザインの根底にある「伝える」力とアイデア

並河:あと、自分の事例でいうと、ユニセフ「世界手洗いの日」プロジェクト(*4)という活動にも携わっています。手洗いを普及させるために、「手洗いダンス」というのを作って。みんなで踊るんです。ヒップホップじゃないですけどね。
たとえば、途上国で手洗いを伝えるために普及活動をするというのは、コミュニケーションなんですよね。みんなが手洗いをする習慣がないところに、手洗いをしようと伝えていくのは、コミュニケーションの力しかない。コミュニケーションというと、つかみどころのないかすみみたいなものだし、実がないようなものにも思えるけれども、実は支援プログラムにもなり得るものだと思っていまして。

福田:どの辺の国なんですか。

並河:世界手洗いの日プロジェクトとは別の活動ですが、手洗いや健康についての支援活動として、インドでひとつ、Theater for Goodというプロジェクトをやりました。その前に、「コミュニケーションはプログラムだ」と思うようになったひとつのきっかけがあったんです。「日本トイレ研究所」という、トイレの研究をしているNPOがありまして。ここのお手伝いで、公衆トイレのマナーアップ、具体的にはトイレットペーパーや水の無駄づかいを減らすことをやってほしい、と頼まれ、「トイレに愛を。」というキャンペーンに関わりました。何をやったかというと、トイレって落書きが多いので、代わりに美しい詩を貼り出して、トイレットペーパーや水の無駄づかいをしない気持ちにさせてみようという。最初、新宿高島屋さんが協力して下さって、実験的にトライしたんですけど。
詩を、ちょっと読みますね。

トイレットペーパーの孤独。
はじめまして
さようなら
その紙があなたと会えるのは一瞬だ
数センチ足らずの短い出会い
別れを惜しむように何度も折って何度も何度も
さようなら
さようなら
ありがとう

これは僕が書いている詩なんですけど。

福田:いいですね。面白いです。

並河:こういう詩をいろいろ書きました。ほかには『自己犠牲 トイレットペーパーとは1枚の自己犠牲である』。これはすごくトイレットペーパーを使いにくくさせる、っていう作戦。あと、『完全犯罪 トイレットペーパーの無駄づかいは密室の中の完全犯罪のように行われる』。こういうのをいろいろ出して、実際にその後にトイレットペーパーの使用量を測ったんですね。そしたら掲出している時と掲出していない時では、掲出している時のほうがトイレットペーパーの使用量が約20パーセントも減ったという結果が出ました。
これがYahoo!ニュースになったりもして、これはコスト削減にもなると。いろいろな公衆トイレから「うちにも貼りたい」と声が上がったんですよね。この活動で、僕は、「あ、伝えるって、プログラムにできるんだ!」と思ったんです。
インドで2年前に行ったTheater for Goodでは、手洗いや健康についての大切さを伝える映画を、インドの制作会社で作り、移動映画館のかたちで、各地で上映しました。

福田:チャレンジですね。でも作れますよね。企画コンセプトがちゃんとしているし。

並河:フィリップ・コトラーという、マーケティングの神様と呼ばれる人が、10年ぐらい前に『ソーシャルコミュニケーション』という本を出しているんですが、著書の中でコトラーさんが「ベーシックなマーケティングの知識を使えば、途上国の意識の変革問題をもっと一気に解決することができる」んだっていうふうに言っていて。でも、非営利の団体にはお金がなかったり、そもそもマーケティングという意識がなかったり。例えば今って、マーケティングで優秀な人たちが一生懸命頑張れば、1万本ジュースを売ることもできるかもしれないけど、同じだけ力をかければ、1万人の子どもたちを救うこともできたりするんじゃないかなと。コミュニケーションの力でできることっていうのは、実際にあるんじゃないかなと思ってやっていたりしますね。

福田:並河さんの『WITHOUT MONEY SALE』(*5)というオンラインショップのプロジェクトも、素晴らしいアイデアですよね。

(*4)ユニセフ「世界手洗いの日」プロジェクト 国際衛生年であった2008年、10月15日に定められた「世界手洗いの日」を広めるために、日本ユニセフ協会がスタートしたプロジェクト。世界手洗いダンスを開発した。 http://handwashing.jp/

(*5)WITHOUT MONEY SALE  並河氏が手掛ける、お金では売らないオンラインショップ。愛や知恵、時間など、お金以外のもので商品を買うユニークな試みのサイト。 http://withoutmoney.jp/