『ソーシャルデザイン入門』 電通ソーシャル・デザイン・エンジン代表並河進氏×実業家 福田淳の対談@成蹊大学【後編】

「お金・もの・サービス」
それ以外の交換が広がる、豊かな社会へ

並河:人はお金だけではなくて、目に見えないもの交換しあって生きています。そのしくみを可視化・具現化しようということで立ち上げたプロジェクトです。
普通のオンラインショップはお金を出すと商品が買えますが、僕がやっているオンラインショップはお金では買えないんです。最初は9年熟成の、すごくおいしい梅干しを出したんですけど、ここではお金じゃなくて「愛で買う・知恵で買う・時間で買う」という三つの選択肢から買ってもらうことにしました。「愛で買う」は、原稿用紙3枚分に梅干しへの愛をつづって送ると、梅干しが届きます。「知恵で買う」は、梅干しを盛り上げるアイデアを3つ出す「時間で買う」は、梅干しを深く理解する時間ということで、生産者のもとに2時間弟子入りする。最初は限定10個で販売して、あっという間にソールドアウトしました。こういう仕組みをいろいろつくっていきたいなという思いもあって、さらに最近、「リユーファンディング」(*6)といって、ヤフオク!を活用した新しい形のクラウドファンディングを始めまして。

福田:リユーというのは?

並河:リユースを活用したクラウドファンディングっていう意味ですね。普通のクラウドファンディングはお金で支援するんですけど、そうではなくて、不要になったものを送るとそれが販売されて、支援金につながるというプロジェクトです。
第1弾は、ホテルオークラ東京旧本館の家具を販売して支援にしました。その時、ホテルオークラ東京は本館を建て直すということで、「貴重な文化財なのにもったいない」って惜しむ声もあったんですよね。
家具を販売してチャリティーにして、東北の子どもたちのオーケストラの支援にするという形で。これもすごくうまくいって、およそ4600万円のお金になりました。すごく良かったなと思っています。最後にあとひとつ、お話させてもらってもいいですか。

福田:もちろんです。

並河:経済学部の皆さんからすると「市場経済」をシンプルに図式化すると、「お金ともの・サービスの交換」ということになると思うんですが、でも世の中ってこういうことだけじゃなくて、目には見えないいろいろなものが交わされているんですよね。僕がやっているプロジェクトでは、社会を良くするための何かのために、お金だったり知恵だったり時間だったりアイデアだったりものだったりサービスだったり、いろいろな人が出し合ったりしてできている。そうした交換が行われる新しい場所を作りたいなと思っていて。先ほどのリユーファンディングでは、みんなが要らなくなったものを出すことで、それが社会のためになることになったりとか、オンラインショップの「WITHOUT MONEY SALE」だと、ものとお金の交換ではなくて「愛とものの交換」や「知恵とものの交換」だったり、そういう場所を作りたいなと思ってやっています。さっきのインドのTheater for Goodプロジェクトでは、僕は「映像を作る」という能力を提供して、それがインドの生活習慣を良くすることにつながるといいなっていうふうに思って。お金の数字だけ見ていると、どれだけ大量に作って、どれだけコストを減らして、どれだけ利益を上げていくか、ということになっていくんだけれども、それに行き詰まりを感じているのが今の時代だとしたら、やっぱりその先にどういうものが交わされるとすごく幸せになるのかを考えていく必要があると思います。もちろん、何か一つだけの答えがあるわけじゃなくて、たくさんのいろいろな形の仕組みがあることが幸せになると思いますし。これは実は新しいことではなくて、例えば小さな村だったら、当たり前にみんなで協力して何かをやったりとか、お総菜を交換し合ったりとか、そういうふうにしていたようなことが大きな社会になっていくとどんどん失われていくので、それを仕組みとしてつくりたいなと思っているんですよね。

福田:並河さんの取り組みは、本当に面白いです。シェアエコノミーが流行れば、中央集権的にお金が吸い上げられてくるということではなくて、C to Cでみんな何かをシェアする形は、本来「貨幣が便利だね」って言っている前の世の中の在り様ようですよね。

並河:そうですね。

福田:それがICTを通じて、もっと多様化してグローバルになっていくというのが今の社会で、国を越えたシェアエコノミーが成熟することで、世界の在り様もまた変わっていくと思いますね。その時に問われるのは個人の力。どういう関心を持って、どういう好奇心を持って社会に還元していくのか、何のために自分がいるのかを考えることがとても大事だなと。並河さんのいろいろな事例は、まさにソーシャルデザインのイメージにつながったと思います。本当にありがとうございました。

並河:どうもありがとうございました。

(*6)リユーファンディング
並河氏が代表をつとめる電通ソーシャル・デザイン・エンジンと、ヤフオク!の共同企画。いらなくなったものの売買による支援をインターネット上で実現し、広げていく新しいしくみのクラウドファンディングサービス。
http://reu.auctions.yahoo.co.jp/