コンテンツプロデュースの秘訣教えます
動画配信、SNS、クラウドファンディング、VR/AR等、ここ10年でメディア環境は大きく変化し、今も変わり続けている。一方インターネットの世界では、DeNA「WELQ」に端を発するキュレーションサイト問題やフェイクニュース問題などで、コンテンツの質を問われるようになった。そのような状況のなかで、今、コンテンツをプロデュースする時に必要な能力や視点とはどのようなものなのだろうか──
アニメーション事業を手掛ける(株)ジェンコ(東京・港区)の社長で、映画『この世界の片隅に』をプロデューサーとしてヒットに導いた真木太郎氏と、数々のLINEスタンプ発行やVR GALLERY開設など、新たなメディアや技術でのコンテンツ制作・プロデュースを続けているソニー・デジタル エンタテインメント社長の福田淳氏の対談を実施。かつて東北新社で先輩・後輩の間柄だったという2人の言葉から、コンテンツプロデューサーに求められるものを紐解いていく。
撮影:越間有紀子
日程:2017年5月10日
月刊『B-maga』5月号(2017年5月10日 発行)より転載
http://www.satemaga.co.jp/b-maga/
真木 太郎氏
(株)ジェンコ 代表取締役社長 『この世界の片隅に』プロデューサー
1955年岐阜県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、映像制作の(株)東北新社へ入社。89年からTVアニメ『機動警察パトレイバー』シリーズのプロデュースを手がけ、91年パイオニアLDC(株)に移籍。アニメだけにとどまらず、94年には実写映画『エンジェル・ダスト』(石井聰互監督)、『毎日が夏休み』(金子修介監督)のプロデューサーとしても活躍する。その後、97年(株)ジェンコを設立。『千年女優』、『ソードアート・オンライン』シリーズ、『この世界の片隅に』などを世に送り出した。
福田 淳氏(写真左)
ソニー・デジタル エンタテインメント 社長
1965年生まれ。日本大学芸術学部卒。アニメ専門チャンネル「アニマックス」など多数のニューメディア立ち上げに関わる。(株)ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント バイス・プレジデントを経て現職。
この世界の片隅に
こうの史代の同名漫画を、『マイマイ新子と千年の魔法』の片渕須直監督の手で映画化したアニメーション作品。第二次世界大戦前~戦後の広島・呉を舞台に、18歳で嫁いだ少女・すずの視点で、当時の生活や人々、戦争を映し出していく。主人公すずの声を女優ののんが務めた。「第90回キネマ旬報ベスト・テン」で『となりのトトロ』以来となるアニメーション作品での1位を獲得し、片渕監督はアニメーション映画初の日本映画監督賞を受賞。「第40回日本アカデミー賞」最優秀アニメーション作品賞、「第59回ブルーリボン賞」監督賞など受賞多数。
福田:今回の対談は、メディア環境が変化するなか、真木さんがどういう秘訣を持ってコンテンツプロデュースで20年(*1)も成功してこられたかがテーマなんですけど……。
真木:秘訣なんかないよな(笑)。
福田:自分が聞かれても困る質問ですけど(笑)。でも僕の会社が生き残っている理由のひとつに、iモードからスマホへのプラットフォームの変化に合わせて、そこに載せるコンテンツを上手く考えられたというのはあると思います。スカパー!が開局した時に、とあるチャンネルを始めた地上波出身の人が「いいコンテンツを作っていれば客は増えるんだよ」って言っていましたが、結局そのチャンネルは加入者が一向に増えずにすぐ放送終了したんです。その方はコンテンツ作りには詳しかったけど、逆にメディアとかインフラに対する見識が全然なかったんですね。真木さんのビジネスモデルも、この20年間の環境変化にあわせていろいろ変わりましたか。
真木:周辺は当然変わっていくから、その変化に対応できるよう意識していましたけど、一方で映像の世界には製作委員会ってシステムがあるじゃない。製作委員会にはその時強いメディアが入ってくるから、メディアの隆盛によってメンバーは変わるけれども、委員会自体の構造は変わらない。そういう意味では非常にラッキーな立場でした。
福田:現在も製作委員会という構造は機能しているんですか。
真木:機能していますね。非常に日本的だけどね。
福田:でも以前だったら自社が得意なインフラやウィンドウの窓口取得とトレードオフで出資して委員会に入るケースが多かったと思うんですけど、たとえば今後パッケージメディア(DVD)が弱くなるなかで、窓口取得とのトレードオフの出資が少なくなって、一方でピュアに作品の収益に対してリターンを求める出資が増加するような変化が出てくるんじゃないですか。
真木:今のところはまだ大きな変化はないけど、ただ3年以内には劇的な変化が起こらざるを得ないでしょう。それはなぜというと、特に海外から新しい投資家が入ってくるから。新しい投資家に対して、この製作委員会というシステムが対応できるかが問題になっているんです。つまりそのくらい、製作委員会システムは一種の危うさを持っているわけですよ。メディアプレーヤーが純粋な投資家より先にお金を持っていっちゃうシステムだからね。あるいは数字の不透明さもそう。日本独特の一種の互助会みたいなところがあって、「まぁ福田ちゃんがいるからいいよ」とか「福ちゃんじゃ仕方ないね」みたいなことで済んでいる部分があるんですよ。
福田:ひとつのビジネス産業で、これまでそれで済んでいたのもすごいですね。
真木:なんでそれで済んでいたかというと、メンバーが少ないんだよ。寡占化されているわけ。だいたい50~60社で製作委員会をぐるぐる回しているだけだから、それがルールでもなんとかなる。でも世界とつながった時に、その“常識”が“非常識”になるわけだよ。