logo

コンテンツプロデュースの秘訣教えます Talked.jp by Sony Digital Entertainment

福田:納得感が得られないということですね。『この世界の片隅に』の最初のクラウドファンディングでは2,160万円目標で約3,900万円を集めましたけど、みんなは何に納得してお金を出したんですか。

真木:まず「映画化実現のために、パイロットフィルムを作ります」と目的を設定して、ジェンコの実績とか企画を担当したMAPPAの丸山さんの実績とかを書いて、プロがやっているから極めて実現性が高いリアルな話ですよということを謳ったんだよね。

福田:そこに共感・共鳴する要素が何かあったんでしょうか。

                    

真木:出資者全員にインタビューしているわけじゃないから、それは最後まで謎だよね。ただ3,374人の出資者のうち、1,000人くらいはイベントで実際に顔を見てるんですよ。
出資者の平均年齢は35歳で男性が70%なんだけど、いわゆるアニメオタクとは違う、普通の人が多かった。もちろん片渕(須直)監督のファンもこうの(史代)さん(『この世界の片隅に』原作者)のファンも多いだろうけど、実際に顔を見て思ったのは、その2人のファンってだけではこの人数は説明がつかないってこと。
じゃあなんで出資してくれたかを考えると、これは感覚的なものだから合っているかはわからないけど、メディア側は「これなら当たるだろう」っていう方程式のもとでいろいろなコンテンツをプロデュースしていますよね。そうすると見栄えはいいけど、もうほとんどパターン化してきていて、みんな飽きちゃってる。だからユーザーは「たまには変わったものを観たいよね」と思っていたんだと思う。それで『この世界の片隅に』の持つ、独立系ならではの良質さや良作の匂いを感じ取ったんじゃないかな。それに日本には「判官びいき」って言葉があるでしょ。日本のクラウドファンディングって、どこかそういう部分があると思う。「独立系でお金が集まらないなら、俺が応援してやろう」って。

福田:先日(クラウドファンディングプラットフォームの)「Makuake」で映画のクラウドファンディング事例を見ていたら、有名俳優の出演するメジャー映画の案件が100万円程度しか集まってなかったんです。それはなぜかとMakuakeの担当者に聞いたら、ユーザーが見抜くんだそうです。「メジャーな俳優が出ているメジャーな配給の映画なら、べつに俺たちのお金要らないんじゃないか」と察すると、そのくらいしか集まらない。だから『この世界の片隅に』は、企画の良質だけれども、どこかせっぱつまっている感が届いたのかもしれませんね。
プロモーション面でも『この世界の片隅に』はインディーズで予算もなかなか足りなくて、広告宣伝費も少なかったと思うんですけども、当初からソーシャルメディアでものすごくアクティブに応援する人がいましたよね。これはどういう仕掛けだったんでしょうか。

                    

真木:いや、実は特に仕掛けはないんだよ。監督は日常的にTwitterやウェブサイトを使って情報を発信していたし、僕はFacebookで発信していて、その延長。僕がTwitterを始めて2行だけつぶやいたら、なぜかそれがYahoo!ニュースになっちゃったりしたけど(笑)。

福田:そういう意味ではSNSはプラスに働けばいいですけど、悪く働くとこんなに怖いものはないですね。

真木:本当にそう。やっぱりFacebookにしろTwitterにしろ、文章ってこちらの意図が100%伝わらないんだよ。だからすごく難しいんだけど、でも『この世界の片隅に』はインターネットによる口コミってシステムがあったからここまできたって部分はあるよね。
ただネット上だけじゃなくて、ネットを使っていない高齢者も本当の口コミで観に来てくれている。あとアンケートを取ってみると、「テレビがきっかけ」って人がけっこういるんですよ。ただ今回僕らはテレビスポットを打ってないので、それは全部取材番組。それも担当ディレクターやコメンテーターが気に入ってくれて、かなり中身に踏み込んだ取材をしてくれていたんです。 最近はあまり使っていないんだけど、昨年映画がヒットし始めた頃は「共感」って言葉を使っていたんだよ。映画やエンターテイメントを「良い」と思うのって、作品への共感ですよね。でも『この世界の片隅に』はそれだけじゃなくて、「共有」する映画になっている。この映画の特長は、観た人によって感じ方が違うのに、ちゃんとみんなの心に残ること。それでふとこの映画のことを思い出すと、じわっとくるっていう。最近片渕監督は「この映画は観た人の中に住み着いている」って言うんですけど、みんなが心の中に『この世界の片隅に』を共有してくれているんですよ。
で、共感から共有に進んださらに先があって、今度は映画を共有した人が「あなたまだ観てないの?」とか「絶対観た方がいい」とか、ダイナミックで力強い言葉で映画を薦めてくれるんです。著名人もSNSでバンバン薦めてくれた。ここまでくるともう「共犯」だよね。『この世界の片隅に』の口コミの広がりには、共感→共有→共犯って流れがあったんだと思う。テレビの取材なんかもこの流れに乗っているんじゃないかな。

福田:それはまさにソーシャルマーケティングの流れと同じですね。僕の会社もソーシャルマーケティングを手掛けてるんですけど、この分野は人がメディアになっちゃうんですよ。実際に有名企業はこちらにマーケティングをシフトし始めていて、たとえばネスレやナイキはテレビスポットを減らして、その分の予算をデジタルマーケティングと交通広告にシフトさせてるんです。で、テレビスポットに比べて作業はむちゃくちゃ増えているけれども、SNSでの拡散や口コミで売上は上がっている。そういう世の中のシフトとこの映画のヒットの根底に流れるムードは、僕はすごく似ていると思いますね

TOPへ