SNSが変える印刷メディアの未来

SNSが変える印刷メディアの未来(前編)

主催者 : 東京都印刷工業組合の経営革新マーケティング委員会
日時 : 2017年9月13日
場所 : 日本印刷会館
構成:井尾 淳子

福田 淳氏

ブランド コンサルタント。1965年、大阪生まれ。日本大学芸術学部卒業。衛星放送「アニマックス」「AXN」 などの立ち上げに関わったのち、 2007年にソニー・デジタルエンタテインメント創業、 初代社長に就任 (現 顧問)。 2017年、ブランドコンサルタントとして独立。NPO法人「タイガーマスク基金」の発起人をはじめ、 文化庁、経済産 業省、総務省などの委員を歴任。 2017年、新しい世界を切り開 くリーダーとして、カルティエ提供「チェンジメーカー・ オブ・ザ・イヤー2016」を受賞(日経BP)。近著に『SNSで儲けようと思ってないですよね?: 世の中を動かすSNSのバズり方』(小学館)がある。

今後も紙? それとも、デジタル?

質疑① 
わが家では新聞を3紙購読しているのですが、マンションで、1カ月一度の回収に出すのが大変なんです。テレビも4Kで大画面なので、そちらのほうが利便性あるのかなと。美容院では、「毎月雑誌を買って処分するのも大変」ということで、お客様の人数分だけiPadを渡し、施術の間はそれを見てもらうという提案をしているお店もあるそうです。紙かデジタルか、今後どう変わっていくとお考えでしょうか?

福田:どれほどメディアが進化して、種類が増えたとしても、昔のメディアが完全になくなったことはないわけですね。ソニーの歴史でいうと、ベータを作った当時は、「このカセットデッキで録画すると、映画館に行かなくていいですよ」というプレゼンテーションでした。ところが、その後ホームエンターテインメントの時代になり、VHSからDVDに変わり、劇場映画の3倍も売れるようになりました。でも果たして今、どうなっているか。パッケージがなくなり、DVDの売り上げはほぼなくなりました。一方、劇場は世界的に広がっている。劇場に行くニーズは今も全く、なくなってはいません。

紙とデジタルの両立のバランスを、どうプロデュースできるか。美容院なら美容院、本屋なら本屋と、これからはアイデアの出しどころだと思います。デジタル広告というのは、平均7秒で次のサイトに行ってしまうという調査結果があります。美容室で雑誌を見ていて、7秒で追える人なんてめったにいませんよね・だから、本来雑誌というのは、視聴時間も視聴の質も、かなり高いはずです。美容院でタブレットを渡されて、「いやぁ満足だ」という人は、今でも少ないと思います。それがデジタル世代ばかりのお客さんだったとしても、です。

紙とデジタルのバランスを、場所や時間、ターゲットに応じてプロデュースできる人を「正しいカスタマージャーニー」と呼びますが、両方のメディアをハンドリングできてはじめて、カスタマーを満足させられるという気がします。今日この会場に伺う際も、秘書に「初めて行くビルだから、地図をプリントアウトして」と頼み、出力を見ながら来ました。やっぱり紙の機能が必要な人もいて、それは年代の問題ではないと思います。 デジタルの仕事をやっていると、30代前半の若い人たちとミーティングをすることも多いのですが、みんなパソコンを立てて、僕が「こうだよね」と話しても、一斉にパチパチパチパチとキーボードを叩く。「今言ったこと、もう一回言ってみて」と聞いても、みんなメモしているだけで、僕が何を言ったのか反芻してくれる人はほとんどいません。デジタルで正確に議事録をとって上司に報告しなければいけないのかもしれませんが、もっとちゃんと考えて、ディスカッションしようよと。

今日だって皆さんとこうして質疑応答しているほうが、パワーポイントで説明するより、よっぽどライブで楽しい。どんなにテクノロジーが進化しても、人間のやっていることは変わらないんですよね。「◯◯会館まで、ちょっと福田の話を聞きにいってやろうか」なんてアナログな行動はもう全部やめて、「僕の話はビデオレターで送りますから、見ておいてください」というのでも、いいわけですけども(笑)。それでも「2000円払って、話を聞きに行ってみよう」というリアルな接点は永久になくなりません。それは紙がなくならないのと、僕は同義語だと思います。

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