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魚・海・アート。 どれも細かくパーツ分けできる

魚と海が教えてくれた経営論 Talked.jp

福田:これからの時代は、学校の先生にもマーケッターの要素が求められるのかもしれませんね。繰り返しになりますけれど、石坂浩二さんを筆頭に、横浜美術大学の客員教授のラインナップは、まさにマーケティングですよね。

岡本:ありがとうございます。

福田:理事長のご経歴は魚・海からアートまで、やっぱりものすごくユニークですよね。そういう専門分野で先頭を切ってやってらっしゃる方って、僕の知る限りまったくいないなと思うんですけども。自然からアートという道筋なんて、1人の人間の中で両立するのかなと、素朴な疑問を感じるのですが。

岡本:一つは、人が好きというのがありますよね。人をどういうふうに育てていくのかと。そういう立場になって大切にしているのは、迷ったら児童・生徒のため、学生のためになっているかどうかで判断すればいいと。そうなっているならば、結果的には自分のためになっている。気を付けないといけないのは、最初は生徒のためと思ってやっていることがマンネリ化し、質ではなく量が残る場合。生徒は「もうおなかいっぱい、消化不良」になっているのに、先生は「やってあげている」と思ってしまうんですね。それはもう自己満足。ときどき初心に返って、生徒のためなのか、自己満足のためなのかを見極めなければなりません。児童・生徒・学生は前述の通り、授業料を前払いしているわけですから、それに応える教育であるべきなんですよ。  もう一つは、パーツに分けて組み直すがありますね。どういうものを見ても、それを切り刻んでいって、その中身をパーツに分ける作業が必要なんです。生き物を細かく分けたとき、今度は海を細かく分けたとき、どことどこがつながって、どういうふうになっていくかを考えるんです。「AとBの要素を組み合わせた時にCが見える」という方法ですね。 アートについては、自ら進んで入っていこうと思っていたわけではなかったんです。ご縁をいただいて、横浜美術大学の母体である学校法人トキワ松学園の理事長を務める中で、大学も一緒にやりましょうということで。それで、大学の要素も同じように、パーツに分けていって見ていったんです。

福田:そうなんですか。水産と同じやり方。

岡本:ええ。同じやり方で。アートが持っている内向きな側面と、社会が必要としている外向きな側面をパーツに分けていきました。それが一つのものに融合できるようなプロセスの中で、美術というものと向き合おうと思ったんですね。 なかでも、寺田倉庫さんのご協力はありがたかったですね。今、美術デザイン学科のカリキュラムになっている「寺田倉庫寄付講座 修復保存コース」が実現しました。

福田:寺田倉庫というと、アートや映像フィルム、ワインの温湿度管理による保管で知られる倉庫会社ですよね。

岡本:そうです。その寺田倉庫さんのご寄付で、美術工芸品の修復保存のための修復技術者を養成するコースができました。隈研吾さん、吉岡幸雄さんらを客員教授に迎えて、2017年から始まったんですけども。このコースの設置にあたり、修復を専門とする企業や専門家をいろいろ訪ねたのですが、前述の金魚「らんちゅう」の世界とよく似ていましたね。自分の流儀だけが正しくて、他は排除するというムードが。

福田:そこにもセクショナリズムがあったと。

岡本:そうですね。それで「これは違うな」と思いました。修復保存でもその要素を分解してみれば、不可欠なものとそうでないものが必ずあるはずだと。たとえば一般の人が何かを修復しようと思った時、いくらまでなら出せるのか。そうすると、「100万は高い。出しても50万」というのが一般的ならば、その予算で修復できるレベルの設定や修復技法の研究が必要ですよね。横浜美大ではそういう基盤を作ろうと考えたわけです。もちろん、学理や技術の基礎はきちっと教えた上での話です。

福田:なるほど。分かりやすいですね。

岡本:それは他のカリキュラムでも同じです。自分たちのやってきたことをもう一度見直して、クライアント(学生)が求めている環境を、どれだけ整えられているのかと。福田さんがおっしゃったことと一緒ですよね。画家は年間幾ら稼がなければ生きていけないのかを換算して、じゃあ実際に何をどうするのか。すべてパーツに分けて、組み立て直して考えるという行程は、水産学もアートも共通しています。 そうやって、前向きなイキイキとした人材を社会に輩出する大学に、「生きていくことができる(=食べていくことができる)制度設計」をしっかりとつくり上げていかないといけないと思っています。

福田:最高ですね。とても分かりやすいです。

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