~WASEDA NEOトークセッション第1回~

デザイン経営時代のブランディング 
~WASEDA NEOトークセッション第1回~(後編)

主催:WASEDA NEO
構成:井尾 淳子
撮影:越間 有紀子
日程:2018年11月22日
場所:早稲田大学日本橋キャンパス(コレド日本橋5階部分)

WASEDA NEOとは

早稲田大学が行う、社会人を対象とした新規事業。 デジタル時代にこそ必要なブランドの考え方とは何か?  ソニー・デジタルエンタテインメントの創業者で、デジタル時代のマーケティング、ブランディングのプロである福田淳をホストに、第一線で活躍するデザイン、ブランディング等のプロフェッショナルを招き、最先端の「デジタルブランディング」の本質に迫る講演会。 トークセッションの第一回目のゲストは、コンセプター坂井直樹氏。デジタルブランディングの観点から分析するトークセッションの一部を紹介する。

第一回ゲスト/坂井直樹氏(写真右)

コンセプター。1947年京都市出身。66年、京都市立芸術大学デザイン学科入学後、渡米。68年、サンフランシスコでTattooCompanyを設立。ヒッピーたちとTattooT-shirt(刺青プリント Tシャツ)を売り、大当たりする。73年に帰国し、株式会社 ウォータースタジオを設立。87年、日産「Be-1」のデザインで一躍時代の寵児となり、その後「パオ」「フィガロ」「ラシーン」とヒットを飛ばした。90年、バルセロナでウォータースタジオ展を開催。95年、MOMAの企画展にカメラ「O- Product」を招待出品、その後永久保存となる。2000年、米国ナイキ本社で300人のデザイナーに、ウォータースタジオのプロダクツと、20年来独自に開発してきたマーケティング手法であるエモーショナルプログラム(Emotional Program)について講演。その後インターネット・マーケティングを行うブランドデータバンク株式会社、デザインオフィス 株式会社ウォーター・デザインスコープを設立。05年au design projectからコンセプトモデル2機種を発表。08年、應義塾大学湘南藤沢キャンパス教授に就任。
『デザインの深読み』
http://sakainaoki.blogspot.comhttps://www.i-ado.jp/

ホスト/福田 淳(ふくだ あつし)(写真左)

ブランド コンサルタント。1965年、大阪生まれ。日本大学芸術学部卒業。 ソニー・デジタルエンタテインメント創業者。 横浜美術大学 客員教授、金沢工業大学院 客員教授。 1998年、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント社 バイスプレジデントとして、衛星放送「アニマックス」「AXN」 などの立ち上げに関わる。 NPO法人「タイガーマスク基金」の発起人をはじめ、 文化庁、経済産 業省、総務省などの委員を歴任。 2017年、カルティエ提供「チェンジメーカー・ オブ・ザ・イヤー2016」を受賞(日経BP)。近著に『SNSで儲けようと思ってないですよね?世の中を動かすSNSのバズり方』(小学館)がある。

ヒントは「インサイト」にあり

坂井:だから、ブランドってインサイトですよね。

福田:本当はそうなんですね。インサイトで。だから僕はいつも言うんですけど、ブランディングって、企業のイメージを綺麗にするために外見だけ整えがちです。例えば「チームラボと組んでイベントをやりました」とか、実際強烈なものだし感動するわけですけど、それだけじゃ冠企業そのものは愛されない。 もっと企業や商品に、潤いを与えるようなストーリー、体験を提供していくことで、お客様側から自慢されるようになっていくことができる。

坂井:皆さんは「インサイト」っていう言葉はどの程度、理解しておられますか。

福田:今日、ここに来てくださっている方は平均年齢41歳の企業マンが多いとのことです。

坂井:一つ、事例を言いましょうか。アメリカのマーケッター同士がふざけてしゃべる時に、よく出てくる笑い話があるんです。「もしあんたのご主人がハーレーを買いたいって言い出したらば、それは更年期障害になった証拠です」と。つまり、「彼が欲しいのはバイクじゃなくて、若さなんです」っていう、これがインサイトですね。バイクはプロダクトだけど、その中に潜んでいるインサイトは若さ。じゃあ、ちょっとここでゲームをやりましょうか。「レッドブル」のインサイトは何でしょうか。

福田:レッドブルのインサイト。何でしょうね。

坂井:じつは、複数のインサイトがあるんですけどね。一つは「冒険」です。でもレッドブルって、広告では富士山の上からいきなりスキーで降りてくるようなエクストリームスポーツ、つまり命懸けのスポーツをキャッチアップしますよね。つまり、「危険」というキーワードを初めて入れたインサイトを持ったプロダクトなんです。「冒険」まではみんなも言ったんだけど、「危険」までは言わなかった。

福田:新しいですね、切り口が。

坂井:だから、それがやっぱりレッドブルの強さになっている感じがしますね。

福田:先程のジム・ステンゲルの本にあるんですけれども、例えばモエ・エ・シャンドンの企業理念、さっきのインサイトは何かっていうと、酒を飲んで楽しもうではなくて、「パーティーを盛り上げる役に立つ」なんですね。メルセデスベンツは「人生の成功の象徴」とか、コカ・コーラは「人に笑顔をつくる」。パンパースも面白いですね。おむつとは言わずに「お母さんの子育てを助ける」。だからそういう社会的な接点、役割みたいなものを見つけた時に、初めてブランディングの入り口になってくる。

坂井:そうそう。じゃあ、ルイ・ヴィトン行きましょうか、皆さん、ルイ・ヴィトンのインサイトって何ですか。

福田:これは有名ですよね。ゴルバチョフや著名人が自国以外にいるポートレーイトを広告に使ってますもんね。これは簡単ですよ。

坂井:そう、一つは「旅」ですね。バッグですから。そしてもう一つは「伝統の継承」です。だから、この二つのキーワードが必ず、どんな写真1枚にも映像にも入っているんですよ。デヴィッド・ボウイが亡くなる直前にベネチアで撮ったコマーシャルがあって。それは、まず熱気球でベネチアのカーニバルに降りてくるんですよ。それで最後は帆船で帰ってくる。つまり、熱気球と帆船っていう、「旅」がちゃんと入っているでしょう? で、ベネチアのカーニバルという「伝統の継承」も入っている。

福田:面白いですね。ルイヴィトンがパンクのマーク・ジェイコブスをクリエーティブディレクターに起用した時、伝統を守るためには破壊しなきゃいけないっていうので、前衛パンクなアーティストのスティーブン・スプラウスを起用して大ヒットした。アクアスキュータムと対比してみると面白いんです。アクアスキュータムは、伝統を守るためにデザインは一切変えなかった。けど、それで飽きられて淘汰されてしまった。ヴィトンはイノベーティブなこともやるんだけど、従来のデザインもちゃんと大切にして成功した。そんな複雑なことを一つのボイスとしてできたっていうのが、優れたブランディングだなと思うんですね。

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