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不要な回路を捨てることで 脳は進化する

デザイン経営時代のブランディング 脳を知れば、未来は変わる

黒川:じつは最新著書が、「共感障害」をテーマにした本で。『共感障害の正体 「話が通じない」』(新潮社)というタイトルです。「話が通じない」ということの正体を、脳科学的に解明している内容なんですが。

福田:面白い。ぜひ読みたいですね。

黒川:脳には共感障害といって、「共感できない」症状がありまして。それは、ミラー・ニューロンがうまく働かない方たちなんですね。

福田:ミラー・ニューロンというと、条件反射的に目の前の人と同じ言動をとる、あれですか。

黒川:まさにそうです。ミラー・ニューロンとは「鏡の脳細胞」という意味です。ミラー=鏡、ニューロン=脳神経細胞ニューロンを指します。眼の前の人の所作や表情を、まるっと自分の神経系に写し取る脳細胞のことで、つまり思考回路を通らないんですね。
誰かににっこり微笑まれたら自分も微笑むとか、「あっち向いてホイ」で、指を差されたほうを向いてしまう、などもミラー・ニューロン効果です。このミラー・ニューロンがうまく使えない症状のことを共感障害といって、今、若い人に非常に増えていまして。つまり、人の所作を見たとき、脳内で「一連の所作」として認知できないんです。

福田:なるほど。具体的にはどういうシーンで?

黒川:例えば打ち合わせの後に、コーヒーカップを自分の先輩が片付けていたとしたら、後輩だったり新入社員だったりしたら、「あ、自分がやります」って変わろうとするのが一般的じゃないですか。ところが共感障害の人は、先輩がカップを片付けている、その一連の所作が脳の中に入らない。まるで、往来を行き交う車のように、たんなる風景にしか目に映らないから、ボーッと眺めているだけで手伝おうとしない。あと、目上の人や偉い上司とエレベーターに乗り合わせたときも、その人にボタンを押させてしまう、みたいなことが起こるわけですよ。そういうことが度重なると、「君、そういう態度はどうなんだ!」「やる気があるのか!」と叱られますが、共感障害をもつ人はなぜ怒られているのか、意味がわからない。こういった人たちの中には、「ミラー・ニューロン不活性型」と「ミラー・ニューロン過活性型」があるのです。

福田:つまりミラー・ニューロンが過活すぎるから、うまくコントロールできない?

黒川:そう、ミラー・ニューロンは、「適正」でないと、世の中をうまく認知できないんです。不活性型は、文字通り「周囲の状況をうまく脳に映せない」ので共感障害が起こりますが、過活性でも起こります。赤ちゃんのときにはミラー・ニューロンを最大に持っていて、成長に伴って捨てていくという仕組みになっているんです。なぜかというと、あらゆることに反応していたら、物事の把握が上手くできないからですね。
例えば、カーテンの前にお母さんがいるとします。ひらひらと揺れるカーテンと、お母さんが別物だと認知するためには、「お母さんを認知するニューロン」だけが優先して活性化しなければならない。

福田:つまり、ミラー・ニューロンの数が多すぎると、カーテンの動きとお母さんの動きを一緒に捉えてしまって、その違いが分からくなるということですか。

黒川:そうです。黒いセーターを着ていても、ピンクのワンピースを着ていても「同じお母さん」と分かるためには、余剰なミラー・ニューロンを適度に捨てていくプロセスが非常に大事です。私たちの脳にとって何が一番大事かって、いらないものを捨てることなんですよ。

福田:僕の両親は今、85歳と84歳で元気なんですけれど、やっぱり年齢とともに物忘れは進行していってます。脳がすごく偉大でプログラムされているものだとするならば、どんどん忘れる、つまり不要なフレームを捨てていくのがヒトの進化ともいえるわけですね。

黒川:56歳までの人生で一応、達人になっちゃうんで。後ろ向きの達人は後ろ向きになるし。人を支配したり、人を痛めつけることで自分の存在意義を確認したりする人は、それの達人になっちゃうんですね。誰もが何かのモンスターになるんです、56歳で。それが、世の中の役に立つ優しさのモンスターになる人もいれば、前者のようなモンスターになっちゃう方もいらっしゃる。

(後篇へ続く)

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