旅だけが ”本当”を教えてくれる ~名物作家の世界放浪記~

旅だけが ”本当”を教えてくれる ~名物作家の世界放浪記~(後編)

構成:井尾 淳子
撮影:越間 有紀子
日程:2019年10月1日

鬼塚 忠(写真左)

株式会社アップルシード・エージェンシー代表取締役・エージェント・作家。1965年鹿児島市生まれ。鹿児島大学卒業。在学中2年間の英国留学。大学卒業後、2年間かけて、アジア・オセアニア、中近東、アフリカ、ヨーロッパなど世界40か国を放浪。1997年より2001年6月まで海外書籍の版権エージェント会社「イングリッシュ・エージェンシー」に勤務。映画の原作、ビジネス書、スポーツ関連書籍など年間60点ほどの翻訳書籍を手掛ける。2001年10月に有限会社アップルシード・エージェンシーを設立。2003年に株式会社へ改組。現在では会社の経営とともに、本来のエージェント業務を行う。エージェント業としては『死ぬときに後悔すること25』(日韓55万部)、『情報は一冊のノートにまとめなさい』(シリーズ60万部)、『哄う合戦屋』(シリーズ60万部)、『自分の小さな箱から脱出する方法』(27万部)、『考具』15万部。作家としては『花戦さ』(映画化・日本アカデミー賞優秀作品賞受賞)、『恋文讃歌』、『Little DJ』(映画化)、『カルテット!』(映画化)他多数。劇団もしも主宰。
http://www.appleseed.co.jp

福田 淳(写真右)

ブランド コンサルタント。1965年、大阪生まれ。日本大学芸術学部卒業。 ソニー・デジタルエンタテインメント創業者。 横浜美術大学 客員教授、金沢工業大学院 客員教授。 ブランディング業務以外にも、女優”のん”などタレントエージェント、北京を拠点としたキャスティング業務をはじめ、国際イベントの誘致、企業向け"AIサロン"を主宰、ロサンゼルスでアートギャラリー運営、森林破壊を防ぐNPOなど、活動は多岐にわたっている。 1998年、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント社 バイスプレジデントとして、衛星放送「アニマックス」「AXN」 などの立ち上げに関わる。 NPO法人「タイガーマスク基金」の発起人をはじめ、 文化庁、経済産 業省、総務省などの委員を歴任。 2017年、カルティエ提供「チェンジメーカー・ オブ・ザ・イヤー2016」を受賞(日経BP)。近著に『SNSで儲けようと思ってないですよね?世の中を動かすSNSのバズり方』(小学館)がある。
http://spdy.jp

旅の終着点はロシア

鬼塚:エビ養殖を辞めてからはすぐにエルサレムに移りました。いわゆる「最後の晩餐の部屋」だったところの付近とか、キリストが磔にあったところとかをずーっと歩いたんですよね。キリストの聖地のすぐ100mぐらいそばには岩のドームがあって、ムハンマドが昇天した岩のドームです。世界の中心っていうのがよく分かった。

福田:へえ。すごい旅ですよね。西へ、西へ。

鬼塚:そこからギリシャに行って、そしてユーゴスラビアに行って。それから東欧に行きたくなって、マケドニアを通って。マケドニアって、セルビアの横ですね。戦争も終わりきらぬ頃だったから、ドルがなかったので偽警官の強盗に逢いました。警官の服を着ていたので本者か偽物かわからず、ミルコ・クロコップのようなスラブ系大男から平手で張り倒されましたね。でも被害は百ドル札数枚で終わったので不幸中の幸いでした。で、ハンガリーに行って、オーストリアに行ってドイツに行って。ドイツって、その当時からシェアエコノミーがすすんでいて、ヒッチハイク協会みたいなのがあったんですよ。そこに登録してガソリン代だけ払ったら、車をシェアして目的地まで連れて行ってもらえるんです。で、ドイツを旅して、そのあとにフランクフルトからロンドンまでヒッチハイク協会の登録で連れて行ってもらいました。ロンドンは大学時代に住んでいたから、友だちの部屋を間借りして2、3か月はいましたね。ロンドンに着くまで死にそうなことが最低3回くらいありましたからね。養生する気分で。

福田:その旅って、上海から出て、1度も日本に帰らず、ですよね? それって国をまたぐときにビザを申請すれば出来ることなんですか?

鬼塚:出来ますよ。当時、ビザはほとんどなかったから。

福田:っていうことは、ただただ移動したんですね。それでロンドン以降は?

鬼塚:もっと世界がみたいと思って、バスと鉄道を乗りつないでロシアに行きました。ロシアって、ペレストロイカ*以降何が出てきたかといったらマフィアなんですよね。午後5時、6時超えたら、赤の広場って人種ががらっと変わるんですよ。

*1980年代後半からソビエト連邦で進められた政治体制の改革運動

福田:怖いんですか?

鬼塚:そう、で「やばいな」と思って。で、そのとき貨幣というものをすごい考えて。1単位はルーブルで、電話をするときには1ルーブルの1/100コインのカペイカってあるんですけど(*1ルーブル は1.79 円 2020年1月現在)。その1カペイカコインを得るために、3ルーブルくらい払ったんですよ。つまり日本でいうと、1銭のコインってないから100円ぐらいで1銭のコイン買うということですね。貨幣って混乱するとこういうことになるのかと思って。

福田:なるほど。

鬼塚:ハイパーインフレですよね。で、ロシア人に「部屋を貸してくれ」って言ったんですよ。「どうぞ、どうぞ、部屋には冷蔵庫も何でもあるよ。使ってください」って、とにかくドルだけ取るんです。で、私は1日2、3ドルで、冷蔵庫の中にいろんなものが入っていて好きに何を食べてもいいという食事付きの家をずーっと借りていました。しかも知らない間に食料もちょこちょこ補給してくれる。けど、オーナーには一度も会ったことがなかったですね。会ってもロシア人って英語もしゃべらないから、まったくコミュニケーションはとれないんですけど。食事も料金があってないようなもので。

福田:そういう経済状況ですよね。

鬼塚:それでロシアで旅の資金が尽きて、シベリア鉄道で1週間かけて帰ったんですね。ハバロフスクまで。たった8ドルでした。一週間乗りっぱなしのシベリア鉄道って、ロンドンで買うとモスクワ・ハバロフスク間って200ドルです。当時日本で買うと千ドルくらいだったはずです。同じ旧共産圏のワルシャワで買おうと思ったら80ドル、でモスクワであるロシア人にお願いして購入したら8ドルでした。値段なんてあってないようなものでした。

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