丸の内の週末を激変させた仕掛け人
都市活性化の名人に聞く、スマートシティ考
(後編)
編集・構成:井尾淳子
撮影:越間 有紀子
日程:2022年3月8日
水代 優(写真/左)
good mornings 株式会社 代表取締役。コミュニティプロデューサー。1978年生まれ。愛媛県出身。2002年より株式会社IDEEにて新規出店を手掛ける。2012年にgood mornings 株式会社を設立。東京・丸の内や日本橋をはじめ、全国各地で「場づくり」を行い、地域の課題解決や付加価値を高めるプロジェクトを数多く手掛ける。「食」や「カルチャー」を軸にしたクリエイティブな空間の企画運営やメディア制作を得意とし、様々なコンテンツを織り交ぜ街に賑わいをつくり、地域コミュニティの拠点を創出している。著書に『スモール・スタート あえて小さく始めよう』(KADOKAWA)がある。
福田 淳(写真/右)
連続起業家
1965年、大阪生まれ。日本大学芸術学部卒業。
ソニー・デジタルエンタテインメント創業者
横浜美術大学 客員教授、金沢工業大学大学院 客員教授。
女優”のん”などタレントエージェント、ロサンゼルスを拠点としたアートギャラリー運営、バケーションレンタル事業、沖縄でリゾートホテル運営、大規模ファーム展開、エストニア発のデジタルコンテンツ開発、スタートアップ投資など活動は多岐にわたる。
自社の所属アーティストとは、日本の芸能界にはなかった「米国型エージェント契約」を導入したことでも話題を呼んだ。
1998年、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント社 バイス・プレジデントとして、衛星放送「アニマックス」「AXN」 などの立ち上げに関わる。
カルティエ「チェンジメーカー・オブ・ザ・イヤー」受賞 (2016年)
ワーナー・ブラザース「BEST MARKETER OF THE YEAR」3年連続受賞 (2012-14年)
日経ウェブ「21世紀をよむITキーパーソン51人の1人」選出 (2001年)
文化庁 「コンテンツ調査会」委員
経済産業省 「情報大航海時代考える研究会」委員
総務省 「メディア・ソフト研究会」委員
著書
『ストリート系都市2022』(高陵社書店)
『スイスイ生きるコロナ時代』(髙陵社書店) 共著 坂井直樹氏
『パラダイムシフトできてる?』(スピーディ出版)
『SNSで儲かるなんて思ってないですよね?』(小学館)
『これでいいのだ14歳。』(講談社)
『町の声はウソ』(サテマガ)
(株)スピーディ 代表取締役社長
Speedy Gallery Inc. (CA, U.S.) - President
Speedy Euro OU - President
NPO「アシャンテママ」 代表理事
NPO「ファザリング・ジャパン」監事
公式サイト:
http://AtsushiFukuda.com
YouTube対談動画
https://www.youtube.com/channel/UC3oCfveGQgT2Lpx27O9NDIw
これからのコミュニティは、
アセットバリューよりもコミュニティバリュー
水代:アフターコロナのコミュニティづくりについて考えると、みんなを仲良くする技は自分たちなりに出来てきたと思うんです。古い日本橋の伝統文化を大切にしているお年寄りと、「教育環境が最強で公園もあるから引っ越してきたのよ」っていうタワマンに住んでいるお母さんたちをつないでコミュニティをつくる、仲良くしていくきっかけをつくる、というのは、何となくできるかな、という気はしていて。実際、そういう人たちが出会ったことによって、化学反応が起きる場もあったんですよ。ここ(日本橋浜町)でいうと、すぐ近くにカゴメの本社があるので、地元のお母さんたちがバザーをやっているときに、トマトジュースの協賛が入るようになるとか。そういうことでプロジェクトを生んで、コミュニティのその先が見えてくる。
先程の丸の内の場合は、あまりいじろうとし過ぎると、コミュニティが完全にサードプレイスになり過ぎてしまう、とも危惧しました。それって、もう完全に普段の戦場じゃん、みたいな……。そこは、そういう感じにするのは違和感があったんですよ。僕は自分の住まいはずっと中目黒方面なんですけど、自分がよく行く近所のお店で、「オレ、グラフィックやってるんですよ」と言われて見せてもらって、「じゃあ今度、知り合いのクラブのパーティーのフライヤーをやってみなよ」「ありがとうございます」みたいなことはよく起きるんです。それをもう少し仕組み化させて、丸の内や日本橋浜町でも、人が出会ってプロジェクトができるというのは、たとえそれが自分の経営的なポートフォリオの1パーセント、2パーセントしかなかったとしても、その豊かさは何倍も大きいんじゃないかな、と。
福田:だからやっぱり、今おっしゃったように「コミュニティの質を上げる」ということがファーストだと。
水代:はい。
福田:それプラス、そのコミュニティが社会に何を生み出すのか、というところですね。一方で、さっきの大阪じゃないですけど、緑も要らないし、コミュニティーも要らない!という極端な時代がありました。でも最近は、就職活動の学生から「御社はどういう社会貢献してますか」って聞かれて、答えられずに困る人事担当者が多いそうなんですね。CSR予算といってもほとんど予算もない感じでやっているのが実情です。意識の高い企業では、コミュニティをつくることによって、マーケティング価値やアセットバリュー(資産価値)よりもコミュニティバリュー(参加価値)を作った方が、長く利益になるんじゃないかと思います。そういう捉え方はビジネス的過ぎるのかもしれませんが、僕はいいと思うんですよ。「カゴメは、地域のイベントにトマトジュースをワンケース出します」と聞くと、みんなものすごく、そのブランドに親近感を持ちますよね。それですぐさま、「その売り上げが何パーセント上がる」という計算ではなくて、長い目で見たときの信頼が企業の存続に関わる。そういうことって逆に多いですよね。
水代:そうですね。新しく引っ越してきた人は、地元の企業なんだと知ることで親近感をもって、企業と消費者という関係がお互いより結ばれていくことがいいんじゃないのかな、と僕は思うんですけど。
福田:恵比寿とか自由が丘で何かやろうと思うとき、そこにオフィスをもつ大企業はそう多くなかったりする分、商店街がそのハブとなって、コミュニティとしては良質なものをつくりやすい可能性があるけれど、大企業があるような街のコミュニティでも、やっているのは実際人間なんだから、やれば可能だっていうお考えなんですね。