言葉のチカラが、社会を良くする(後編)
構成:井尾 淳子
撮影:越間 有紀子
2018年4月19日
こやま淳子氏(写真左)
ど。著書に、「ヘンタイ美術館」「しあわせまでの深呼吸。」「choo choo日和」。TCC会員。http://kコピーライター・クリエイティブディレクター。京都生まれ。1995年 早稲田大学商学部を卒業後、コピーライターへ。博報堂を経て、2010年4月に独立。広告コピーを中心に、編集、エッセイ執筆などコトバをつくる仕事に従事する。最近の仕事は、プラン・インターナショナル・ジャパン「13歳で結婚。14歳で出産。恋は、まだ知らない。」、CCJC「強TANSANで、爽KAIKAN」、EDOSEN「福祉のプロになる。」他、ロッテ、ワコール、NHK、今治タオルなoyamajunko.com
福田 淳氏(写真右)
ブランド コンサルタント。1965年、大阪生まれ。日本大学芸術学部卒業。 ソニー・デジタルエンタテインメント創業者。 横浜美術大学 客員教授、金沢工業大学院 客員教授。 1998年、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント社 バイスプレジデントとして、衛星放送「アニマックス」「AXN」 などの立ち上げに関わる。 NPO法人「タイガーマスク基金」の発起人をはじめ、 文化庁、経済産 業省、総務省などの委員を歴任。 2017年、カルティエ提供「チェンジメーカー・ オブ・ザ・イヤー2016」を受賞(日経BP)。近著に『SNSで儲けようと思ってないですよね?世の中を動かすSNSのバズり方』(小学館)がある。
「炎上」と「広告」の関係を考える
福田:博報堂には、結局何年いらっしゃったんでしたっけ。
こやま:6年です。
福田:独立には、どういう心境の変化があったんですか。
こやま:もともと技術で生きていこうと思っていたので、ずっとフリーランスにはなりたかったんですよ。職人としては、フリーがいちばん格好いいんじゃないかという価値観があったんですね。
福田:こやまさんの、その独立心というのはどこから来ているんですか。家庭環境?
こやま:うーん、どうでしょうか。でも組織って、男性の方が幸せなんじゃないかとは思っていましたね。時代は変わりつつあるものの、「組織の中で出世する」みたいな価値観は、男性社会がつくったものなんじゃないかと。セクハラ」という言葉も、私が学生時代の時に流行った言葉なんですよね。だから学生時代の時からすでに、「女性は組織の中では不利なんじゃないか」と感じていたのかもしれません。一方フリーランスは、性別とか関係なく、技術で評価してもらえるイメージがありました。
福田:それは、むちゃくちゃ正しいですね。僕、こやまさんのおっしゃることって概念としては分かっていたつもりだったんですが、「女性には不利なことが多い」という感じは、ここ最近、やっと分かりつつあります。本当にばかだったなぁと思いますけども。「#Me Too」問題もありましたしね。
こやま:あれは、考えさせられるものがありますね。
福田:本当に。だけどその時代の要請とか、クリエイティブの要請っていうのは、その時々によるんでしょうね。「今、そんな表現したら駄目だよ!」っていうことって、すごく多いじゃないですか。
こやま:ちょっと前だったらあり得ないようなことがネットで炎上したりしますし、ちょっと怖い部分がありますよね。
福田:少し前に、絵本作家の方が作詞した「あたしおかあさんだから」という歌詞が炎上(*3)しましたね。母親に子育ての自己犠牲を強いるものだって。
こやま:ネットでは、匿名で言いたい放題言うことが出来ますしね。
福田:それを世論というふうに言ってはいけないわけなんですけども。でも、もう世論になってしまって、脳のある面積をその情報が覆ってしまうことについて、何の対策も打てないという現状がある。こやまさんのように「言葉」を生業とされて、言葉のセンシティビティが高い方から見ると、今のような状況はどういうふうに捉えていらっしゃいますか。炎上って、言葉の攻撃ですよね。
こやま:怖いなと思っていますね。でも、あまり怖がりすぎると何も書けなくなるんですよ。強い言葉が、書けなくなるんです。前述の「Because I am a Girl」キャンペーンのコピーも、当初はいろいろ言われたんですよ。
福田:「13歳で結婚。14歳で出産。恋は、まだ知らない」という素晴らしいコピーですけども。
こやま:「40代で独身の日本女性の方が不幸」とか。広告を出すたびに必ず何か言う人がいて、それが何十件もリツイートされたりして。もっと深刻なことで言えば、「先進国の価値観で、途上国の文化を否定してはいけない」という意見もあったんです。でも、クライアントの考えがしっかりしていたので、「この広告はやめましょう」とはなりませんでしたね。むしろ話題になったことで、この広告で伝えたい、途上国の少女の問題である「早すぎる結婚と出産」という問題について、関心が高まったという効果がありました。
福田:素晴らしいと思います。それが多様性を受け入れるということだと思う。いろんな意見あっていいという。
こやま:だから、発信する側にしっかりとした考え方があるなら、簡単に取り下げないほうがいいと思うんですよね。たとえ多少の炎上があっても、むしろそれがチャンスだと捉えて、「いえ、私たちはこういう考えでこの広告を出しました」「それに対して、議論していただくのはありがたいです」と言えばいいんじゃないかと思うんですよ。すぐ取り下げたりすると、炎上させた者勝ちみたいなことになるというか。
福田:そうですね。そうやって、勝利を与えてきてしまったのかもしれない。
決めつけるのはいけないかもしれませんけど、言葉に対するセンシティビティーが低い状態でSNSに参入しちゃったりすると、本当に荒れちゃうというか。表現力がなくて二元論になると、ディスカッションができずに多様性を受け入れられなくなる。今って、疑うくせだけはついてるわけですよ。でも疑った後に、「本当はどうなのかな」って、自分の考えを導き出すところまで我慢して考えてほしいですよね。批判するだけじゃなくて。
(*3)NHK「おかあさんといっしょ」で「うたのおにいさん」を務めていた横山だいすけ氏が歌う『あたしおかあさんだから』の歌詞が、インターネット上で批判を集めた。さまざまな「おかあさんだから」という我慢を列挙した歌詞に対し、ネット上では「良き母像の押し付け」「ワンオペ育児賛歌」などの声が相次いだ。