オフラインをオンライン化する~バン生活で作る「旅の音声ガイド ON THE TRIP」(後編)
構成:井尾 淳子
撮影:越間 有紀子
日程:2018年8月29日
成瀬 勇輝(写真右)
東京都出身、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。ビジネス専攻に特化した米ボストンにあるバブソン大学で起業学を学ぶ。帰国後は、企業コンサル、イベント事業を経て日本を世界に繋ぐビジョンのもと株式会社number9を立ち上げ、世界中の情報を発信するモバイルメディアTABI LABOを創業。2017年、ON THE TRIPを立ち上げる。著書に『自分の仕事をつくる旅』『旅の報酬 旅が人生の質を高める33の確かな理由』がある。
福田 淳氏(写真左)
ブランド コンサルタント。1965年、大阪生まれ。日本大学芸術学部卒業。 ソニー・デジタルエンタテインメント創業者。 横浜美術大学 客員教授、金沢工業大学院 客員教授。 1998年、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント社 バイスプレジデントとして、衛星放送「アニマックス」「AXN」 などの立ち上げに関わる。 NPO法人「タイガーマスク基金」の発起人をはじめ、 文化庁、経済産 業省、総務省などの委員を歴任。 2017年、カルティエ提供「チェンジメーカー・ オブ・ザ・イヤー2016」を受賞(日経BP)。近著に『SNSで儲けようと思ってないですよね?世の中を動かすSNSのバズり方』(小学館)がある。
リアリティの源は「自然」
福田:成瀬さんは、ご出身はどちらでしたっけ。
成瀬:僕は東京です。生まれたのは麻布です。
福田:そうなんですか。じゃあ、あまり自然と戯れた幼少期はない。
成瀬:ないんですよね。
福田:となると、大人になってあちこち旅をするのはどんな感じですか。
成瀬:3年に1度開催される「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」という地域再生を目的にしたアートイベントがあるんですね。越後妻有は越の国のどんづまりといわれるほどの奥地なのですがここ2年くらいずっと通っているんですよ。他にも、富士吉田の山の中や沖縄、宮崎のビーチ沿いなどでバン暮らしをしていると、自然に近い暮らしになります。
例えば、朝日が昇る時間が分かるとか。夜も当然、日が沈むと真っ暗になるので、太陽の位置とかも気にするようになる。バンにはソーラーパネルを付けていて、それだけが電力源なので、光が当たらないと仕事もできないんですよ。だからおのずと太陽の位置が気になるとか、仕事がしやすいように風通しのいい場所に行くとか。そういう、「自然の中で仕事をする」という感覚になっていますね。
福田:それを発見できた感性がすごいですよ。僕は山崎っていう、大阪と京都の間で生まれ育ったんですね。木曽川とか三つの支流が淀川になるところで、すごく霧が深くて、サントリーの山崎が作られた工場があって。その裏が「天下分け目の天王山。親から「危ないから、絶対に行ったらダメ」と言われていたんですけど、そう言われると行くわけですよ、小学生だから(笑)。で、本当に崖から落ちてけがをした友達がいるんですよね。でも子どもって残酷で、「よし、みんなで小学校の保健室に運べ!」なんて言って、当時は先生もそう大騒ぎせずに手当をしてくれて、大丈夫だったみたいな。だから遊ぶことって本当に、「死と隣り合わせ」なんですよ。
そのリアリティーの源は何かというと、やっぱり自然なんですよね。もともと、すごいリアリティーがあるところで生まれ育ったから。でも東京に出てきたら、こんなにビルが建っているし、地下鉄になんか乗ったらもう訳分かんないし。と、なると、この東京のルールで麻痺しちゃって、「いい水を飲もう」とか「いい空気を吸おう」とか思わない限り、旅って行かないんですよね。だから今、インターネットの功罪で、その場に行かなくても行った気になるし、直接話を聞いたわけでもないのに、聞いた気になっちゃうし。意識的に五感を使うようにしないと、ますます麻痺するようになってしまった。「もう一回、自然を再発見する」というプログラムをあえて取り込まないといけなくなったというか。