人生の秘訣!いまをどう生きるか?以上。

人生の秘訣!いまをどう生きるか?以上。 (後編)

構成:井尾 淳子
撮影:越間 有紀子
日程:2018年12月5日

坂野 正崇氏(写真右)

建築家。北海道生まれ、東京育ち。神奈川県私立栄光学園高等学校を自主退学、大学受験資格検定合格。ボストン・バークリー音楽院大学に入学後、ニューヨークを拠点に音楽家として本格的な活動開始。バークリー音楽院大学を卒業後、北海道・網走の工務店で宮大工の修行に入る。その後建築家として独立、2006年に建築企画、設計、施工 一括受注の「i-ado」設立。建築分野を活動の中心として、日本をはじめ、欧米ヨーロッパ、ブラジル、中国、台湾、インド、スペイン等、国内外における数多くのプロジェクトにおいて、茶室・古民家・寺社仏閣等の文化財、ファッションや食に関わる空間、教育・美術・映画・演劇等に関わる文化施設、ホテル・ヴィラ等の宿泊施設や住居・別荘等の居住空間を、企画から設計、施工まで一貫して行っている。https://www.i-ado.jp/

福田 淳氏(写真左)

ブランド コンサルタント。1965年、大阪生まれ。日本大学芸術学部卒業。 ソニー・デジタルエンタテインメント創業者。 横浜美術大学 客員教授、金沢工業大学院 客員教授。 1998年、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント社 バイスプレジデントとして、衛星放送「アニマックス」「AXN」 などの立ち上げに関わる。 NPO法人「タイガーマスク基金」の発起人をはじめ、 文化庁、経済産 業省、総務省などの委員を歴任。 2017年、カルティエ提供「チェンジメーカー・ オブ・ザ・イヤー2016」を受賞(日経BP)。近著に『SNSで儲けようと思ってないですよね?世の中を動かすSNSのバズり方』(小学館)がある。

理不尽な徒弟制度にも、いちいち「ほぉー」と前のめる

福田:で、やっと宮大工の話に入るんですけど(笑) これを面白いと思えなかったら、今までのニューヨークは意味ないなと思われて、結果として面白かったですか?

坂野:そうですね。結果、面白かったです。面白かった。

福田:でも、徒弟性ですよね。

坂野:めっちゃめちゃ、徒弟性ですよ。

福田:ニューヨークの音楽活動から網走の宮大工になって、ゼロから徒弟制度に入るっていうのは、師匠を持つっていう感覚ですけど、どういう感じですか?

坂野:工務店の棟梁からすれば、「外人が来た」みたいな感覚だったと思いますよ。理解できないことも、たぶんいっぱいあったと思うんですよ。僕のほうも、「え、それ何で?」と思ったり、ぶん殴られたりすると痛いっていうのは、確かにありましたよ。あるんだけど、気分としては「ほぉー」みたいな感じ。要は、自分の知らないこと、出来ないことが起こるわけじゃないですか。そうすると、「お!」みたいな。

福田:前のめるんですね?

坂野:「ほぉー」って(笑) どういうこと、それ?みたいな。

福田:「ほぉー」ですね。師匠に小突かれながらも。
それはね、結果、怒られないパターンの人ですよ。日本人のサラリーマン社会で怒られる人っていうのは、「怒られてる感」を自分から出す人なんです。すぐ「すみません」「申し訳ありません」って言うから、相手がどんどん怒りたくなるんですよ。でも、僕もほとんど怒られたことないですよ。なんでも「なるほどね」とかサラッと言う奴って、イラッとくるけど怒りにくい。「こいつ、響いてねえな」って(笑)
この前、友人ともその話になって。彼女は仕事ですぐ謝るんですよ。だから「なんですぐ謝るの? 何か悪いことしたの?」って聞くと、「よく考えたら、自分は悪くなかった」って。それは、あえて自分をセットバックしたポジションに置いてるってことなんですよ。セットバックした分、相手が怒る分量が大きくならない?って話になって。

坂野:そうですよね。だからバークリーから網走に飛び込んだ時は、本当にカルチャーショックでしたよ。そこに行くまでは、封建社会みたいな事は全く理解してないですから。

福田:いきなり、「お前は小僧だ」から入るわけですからね。

坂野:朝の6時半ぐらいに、一番若い僕が最後に現場に着くと、皆どん引きしてるわけですよ。「何お前、あとから来てるの?」みたいな。寒いから、お前は先に来て火を焚いて温めておけとか、道具とかも片づけるんだっていう、そういう世界。

福田:そこで坂野さんは、また面白くなって「ほぉー」となったわけですよね(笑)

坂野:そうそう。「これは、正直ほぉーだ」と。これはオレにとって、完全にニューだなと。

福田:相手は辞めてほしかったでしょうねぇ。この人いつまでいるんだろうって思った可能性ありますね(笑) で、一応「そうか」と思ったら、次の日からはやるわけですか? 早く来て。

坂野:やるやる。やりました。この世界はこういうものなんだと思って。でも、そういうことの繰り返しなんです、ひたすら。飯とかも、誰かがお金を出して負担する場ってあるじゃないですか。皆で焼肉をして、おいしいからばっと取って、隣の人に「おいしいですよ」みたいなことやると、殴られるわけですよ。「お前、何やってんだ? お前は金を出してないでしょ」みたいな。最初は意味がわからなかった。だから、面白かったですよ。

福田:わかります(笑) 僕の会社も今、面白いですよ。外人が多いから、「日本の習慣って難しくて、これこれこういう段取りしないと、日本人クライアントには通じないからね」って説明すると、「へえ、勉強になるね」ってあっさり(笑) 坂野さんの「ほぉー」じゃないけど、その反応は僕もなんだか心地いいわけですよ。でも、これが日本の組織だったら、「申し訳ございません!」「承知いたしました!」っていう場面ですよ。

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