派遣から10年で巨大企業の役員へ。サクセスストーリーから読み解くもの

派遣から10年で巨大企業の役員へ。サクセスストーリーから読み解くもの(後編)

編集:井尾 淳子
構成:草野 美穂子
撮影:越間 有紀子
日程:2021年2月15日

二宮 英樹(写真/左)

1979年徳島県生まれ。高校卒業後、ミュージシャンを目指して米国に渡るが挫折。2003年に帰国。大塚製薬株式会社に派遣のヘルプデスクとして入社。上海万博出展などに携わり、またグローバルIT組織構築をグローバルリーダーとして推進。大塚倉庫株式会社 執行役員IT担当を経て独立。株式会社オリエント代表取締役。サイバーセキュリティ戦略構築、組織づくり支援、教育等、各種コンサルティングを提供。特に欧米の高度セキュリティ・ソフトウェア開発の人材ネットワークを構築、国内外の企業にサイバーセキュリティ関連サービスを提供。

福田 淳(写真/右)

1965年大阪生まれ。日本大学芸術学部卒業。 ソニー・デジタルエンタテインメント創業者。横浜美術大学 客員教授、金沢工業大学大学院 客員教授。ブランディング業務以外にも、女優”のん”などのタレントエージェント、北京を拠点としたキャスティング業務をはじめ、国際イベントの誘致、企業向け「AIサロン」を主宰、ロサンゼルスでのアートギャラリー運営、沖縄でのリゾート開発、ハイテク農業など、活動は多岐にわたっている。タレントと日本の芸能界にはなかった「米国型エージェント契約」を導入したことでも話題を呼んだ。
モザンビーク支援のNPO法人「アシャンテママ 」共同代表理事、NPO「タイガーマスク基金」の発起人をはじめ、 文化庁、経済産業省、総務省、内閣府などの委員を歴任。
近著に『パラダイムシフトできてる? ポストコロナ時代へ』(スピーディBOOKS)『SNSで儲けようと思ってないですよね~世の中を動かすSNSのバズり方』(小学館)
公式ウェブサイト http://AtsushiFukuda.com

いかに一次情報をつかむか

福田:自分の本『パラダイムシフト、できてる? 』(スピーディBOOKS)でも書いたのですけど、日本人は「ワイドショー脳」になってしまいがちですよね。本では、ワイドショー脳とは、「インターネットの弊害のひとつで、“知った気になる”“見た気になる”“行った気になる”という情報の受け取り方」と書きました。だから一次情報やメディアへの触れ方って大事だなと、つねづね思っていて。

僕は仕事で沖縄に滞在している間は、テレビもほとんど見ないし、東京のことはあまり気にならないんですよね。国際ニュースを見たり、ネットでニュースをチェックしたり、ロスやロンドンの友達と「どうなの?」って話になったりして、点になっている世界の感覚を自分の肌感覚の中で、「こういう状況なんだな」って、再構築できる気がするんです。それが東京戻ると、芸能人の方がコロナで亡くなって大変だ、って、テレビがそれ一色になってしまう。もちろん、それ自体は悲しいことではあるんですけど。

二宮:そうでしたね。

福田:面白かったのが、この前NHK BSで見た番組で、WHOが新型コロナの発生源について調査するために武漢に行ったけど、その結果は信用できるのか?ということに迫ったドキュメンタリー。イギリスのBBCが当時のSNSを徹底的に解析していたんだけど、これが結構すごかった。番組だから単純化したものを見せられてはいるものの、例えばカナダのアカウントと北京のアカウントで同じ内容の投稿をしてみたときに、中国ではどう削除されるか、っていうように色々なテーマで試して、この分野の投稿は消されるのか?みたいなことを割り出していって…。

二宮:グレートファイヤーウォール(中国のネット検閲システム)ですね。

福田:そう。色々な調査をもとに、武漢の対応がどういう経緯で3週間遅れていたのかを追究する番組でした。世界で動いていることと、日本が持っている情報の、この落差! 日本人はそういう状況が分かるメディアインフラ環境の中にいないことが一番危険だと思わされました。多様性が云々というよりもそういうところですよね。

二宮:メディアとの関わり方でいうと、セキュリティ業界の人間で本当に優秀な人は、絶対にメディアに出てこないんです。真実が曲げられたりして、正しく伝わらないから。「こういう風に訴えた方がみんなが見てくれる」という商業的観点が強くなってしまうと、どうしても切り取りが発生しますよね。その切り取られた一部だけが独り歩きしてしまうと、せっかくみんなのために、と元々の情報を出してくれた人に対して、「あの人が言ってることは間違っている」「角度がどうのこうの」と、いわゆるレピュテーションリスク*問題が起こってしまうんです。だから、ちゃんと分かっている人たちが真実をメディアに出すことに抵抗が出てくるのも仕方がない。そのあたりにどう塩梅つけながらやっていくかが重要ですよね。だから僕は今回の本もそうですけど、リスクをマネジメントするという観点だけのお話にとどめて、実際裏の文脈はもう説明しない。そうすることで少しずつ貢献出来たらいいかな。裏はこちらが知っていればいいことですし。

(*企業に対するマイナスの評価・ 評判が広まることによる経営リスク)

福田:本というのは過去の話が書かれているわけだけど、そういう意味では、今回本を出すというのはよかったですね。

二宮:そうですね。

福田:まずは、日本では人となりを知ってもらうことから始まるから。日本では仕事って、「〇〇さん知っていますよ」というところがないと、受注の話までなかなかいかないですからね。なんで接待ばかりやっているのかと聞いたら、「人を知らないと仕事が発注できない」って言うくらいです。

二宮:その仕事のやり方のみというのは、時代の流れ、世の中の本当の状況に合っていないんですよ。ファイナンスの周りとか、あるいはメディアの活用の仕方。なかなか難しいですよね。

福田:年寄りは辞めろとか、女性が少ないとかじゃない。何の年齢でも何のジェンダーでもいい。だけど、その分野をちゃんと知っている人をアサインメントしてくれと。それでいいと思うんですよ。

二宮:同感です。重要なのは、正しい情報と思えるものを集めて、判断することですよね。

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