『不思議の国"中国"のソーシャルメディア事情』(対談 福島 香織 氏 × 福田 淳 氏) | Talked.jp

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福島:だから、例えば、この年に湖南省の長沙に進出します、という場合、それなら長沙の書記にさえ会えば、全てがうまくいくっていう業界がたくさんあるんですよね。そうすると、さっきのネットワークじゃないけど、俺とどこそこの都市の書記は、義兄弟だ。一緒に女を買ったこともある。愛人を共有したこともある、っていう、そのぐらいの人間関係を築くと、無理も聞いてもらえる。その代わり、袖の下はこんだけ払ってねって。もちろん、袖の下を堂々と渡すわけにはいかないので、いろんな方法があって、例えば、本当なら1円のものを100円で買います、みたいな。そういう世界ですよね。それで、上乗せした分は2人で山分けみたいなことは普通にあったわけですよね。結局、賄賂の仲介とか、マネーロンダリングとか、そういうことが肝心で、ある意味、中国では法律はどうでもいいって言ったら問題になるけど、法の網をかいくぐって、人間関係を仲介しますよっていうのが、基本、コンサルタントなんですよね。
でも、人間関係って、権力闘争でひっくり返ることがあるわけです。今まで頼りにしていた人が失脚して別な人に代わったときに、それまで築いてきた人間関係は全部消えちゃうわけですよね。だから、うまく世渡りができない人たちは、今どんどん汚職とかで挙げられてしまうし、典型的な例で言うと、薄熙来は商務部の部長だった時代に、日本企業とものすごく仲が良かったはずなんですよ。いろんな企業の総代表とか社長の執務室には薄熙来と握手している写真があったわけです。ところが彼がああいう形で失脚したときにみんな慌ててその写真を下ろした、っていう笑い話があるくらい、ものすごくはげしい権力闘争の時代なんです。この人が失脚するわけない、と思われていた人間が躓いちゃう。ある日突然、人間関係が失われて、コネクションが消えてしまう。今、日本企業が「中国は危ないな」と撤退も視野に入れているのは、先行きが読めなくなってきているせいもあると思います。

福田:その流れで話すと、日本のネットベンチャーが、例えばテンセントと組むこと考えたら、まずは深圳に行こうって思うわけです。でも、福島さんが仰ったように、省ごとに管轄が違うというか、例えば、北京と上海も仲悪くて、全然違う国みたいじゃないですか。だから、いきなり深圳行っても、それこそ誰も会ってくれない。それなら、北京でカンファレンスがあるときに、担当マネージャーを見つけて切り出してみようかとか、もうそれぐらいのアクセスしか浮かばないですよね。

福島:そうでしょうね。

福田:でも、北京まで行ったところで、マネージャークラスだと、何にも言わないのが仕事っていうか、何の力も持っていないんですよね。実はこないだある中国企業の幹部と会ったときも、会食時にマネージャーの人たちが10人ぐらいいて、やたらと僕に質問してくるわけですよ。僕も注意しながら答えたんですが、こっちにも質問する権利があると思って何か聞いても、みんな絶対答えないんですよね。後から信頼してる通訳の人がこっそり教えてくれたんですけど、あの人たちは聞くだけの係です、答える権限は与えられていませんって。

福島:そのとおりですね。

福田:そのレベルじゃないですか。となると、やっぱり、人脈ある人を先に探す方が効率的ってことですね。

簡単に他人を信用しない中国人

福島:はい。取材でもそうなんですけれども、中国の場合は、基本的には、誰それの紹介とか、誰それが自分の信頼性を担保にしてくれるという人を見つけないとなかなか難しいですよね。

福田:これが実に難しい。以前、雑誌のインタビューで「中国でコンテンツビジネスを展開したい」って発言をちょっとしただけで、多くの方から問い合わせがあって、本当に素性がわかんないような人からも「俺、誰それを知ってる」って言ってくるんですよ。でも、本当にその人を知っているのか調べると、結果、殆どちゃんと人間関係ある人はいなかった。

福島:そうなんですよ。

福田:一人くらいいるかと思ったけど、見事にいないんですよね。

福島:私、ビジネスの現場について、まだよく理解してないんであれなんですけれども、やっぱりこっちサイドが欲しい技術とか、欲しいコンテンツとかを持っていれば、それは向こうから本当は・・・。

福田:来ますね。

福島:寄ってくるわけですよね。そうじゃなくて、一山当てようっていう感覚で、訳のわからないコンサルを使って入った場合は、たいてい失敗するんですよね。よく、中国に行ってこんな目にあいましたっていう本を見かけますが、たいていは、この種の失敗話なんですよね。やっぱり、中国で成功している日本企業って、ものすごく長い時間をかけて進出している会社が大半で、話を聞くと、華僑ネットワークを熟知している企業だけが生き残ってるんですよ。商社なんかはその典型だと思うんですけれども、本当に個人的に、何とかファミリーと家族ぐるみの付き合いがある。新聞記者でも、いわゆるファミリーの付き合いがあるゆえに、すごい特ダネが取れる人っているんですよね。そういう記者が何をしているかって言うと、偶然出会っただけの人といつの間にか仲良くなって、例えば留学生の保証人になったりとか、大金を貸したりとか、そういうことを何年も何年もしているわけですよ。で、ある日突然、自分のおじいさんは解放軍の偉い人だった、みたいなことを打ち明けられ、ちょろちょろっと奥の話が聞けるっていうのがあるんですよね。

福田:なるほどね。深いなあ。

福島:中国人は基本的には人を信用しない人たちなんですね。その人を見るのではなく、自分たちの血縁の中での信頼関係を基礎に動くわけですよね。例えば、自分のファミリーに対してすごく良くしてくれた、しかも、下心なしにっていうことを、ずっと観察していて、あるとき、そろそろこいつも認めようかな、とようやく受け入れる。