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YMOが社会現象になった理由②

「ヒットの神様」に愛されるには?YMO、ユーミンを生んだ名プロデューサーの破天荒人生(後編)  Talked.jp

川添:で、そのフェスを主催するにあたって、A&Mレコードにはトミー・リピューマという、ヒットプロデューサーがいたんですね。その人はマイケル・フランクスとか、ジョージ・ベンソンのプロデューサーなんですけども。その彼が、ニール・ラーセンという新人のキーボードプレイヤーを連れて、僕らが企画したフュージョンフェスに参加するというので来日してきたわけ。来賓が来ると、なぜか僕がいつも接待する係だったんですよね。で、僕がトミー・リピューマの面倒を見ていたので、ニール・ラーセンが演奏するときに、一緒にYMOも出演させることにしたわけ。フェスの夜、トミーと一緒に観に行こうとなったので、僕は一計を案じましてね(笑) シャンパンを5本ぐらい持っていって、気分良く飲んだ彼が半酩酊状態になったところで、紀伊国屋ホールに連れていったんです。

福田:仕掛け、戦略が素晴らしいですね(笑)素面では聴かせない!と。川添さんのそのお茶目なというか、遊びごころにもヒントがありますよね。

川添:(笑)で、YMOの演奏が始まったらトミーがいよいよ酔っちゃって、「こりゃいいよ! アメリカで出そう!」って言うじゃない。しめた!と思ってすぐ村井に電話して、「トミーがアメリカで出すって言ったよ」「分かった!」って(笑)村井はすぐさま、当時A&Mの副会長だったジェリー・モスに電話して、「トミーがこう言ってるから、うちのYMOを出して」と言うと、「分かった分かった。じゃあ出すよ」となったんです。で、トミー・リピューマが持ち帰って、YMOのアルバムを出す準備を始めたはいいものの、アメリカに帰ったら酔いも冷めはてて……。

福田:そんなに長く続かないですよね。シャンパン(笑)

川添:そう。最初にYMOを聴いた僕らみたいな状態に戻って、「あれ、これからどうしよう」ってなったわけ。でも約束したし出さなきゃいけないし、どうしようかと悩んでいたところに、当時アメリカで大人気バンドだったTUBESというバンドのマネージャーがオフィスを通りかかったんですよ。

福田:TUBES! 大好きでした。僕、全部LP持ってました。

川添:そうでしたか。で、そのマネージャーが「面白いね。何よこの音」と、(YMOの音源を)気に入ってくれたわけ。そこでトミーに、「じつは夏のTUBESの野外コンサートを3日間やることになって、観客も1回1万人来るんだけど、前座でこいつらを呼べないか?」と。

福田:また、ヒットの神様がついていた(笑)

川添:そう。でも僕としては、「いい話だけどどうする? 売れてないし、連れていくお金もないけど……」なんて言ってたら、村井が博打打ちで、「オレが金をつくってくるから、こいつらロサンゼルス持ってっちゃおう。象ちゃんが一緒に行けば安全だ!」なんて。全然、安心じゃないよね(笑) それでもどこかから資金を調達してきて、3人を連れて行っちゃったわけよ。3人とも、もともとが優秀なミュージシャンでしょ? だからゲストアーティストとして、矢野顕子と、渡辺香津美っていうスーパーギタリストも連れてロスに行くことになったんです。

福田:またすごい展開で、すごいメンツですね。

川添:そこでまた、僕は一計を案じましてね。YMOの高橋幸宏(ドラム)はファッションセンスがすごくいいから、「衣装は制服をつくって」と言ったんです。アメリカ人が日本人をアイデンティファイするとき、「日本人」=「学生服」とか、制服のイメージのイメージがあると思ったんですね。あとは「コンピュータ」とか「無表情」とか。そういう、日本人の特性を全部舞台で出そうと思いました。それで高橋幸宏には制服を作らせて、YMOではコンピュータを使ってミキシングしちゃう音を出させて。それと被せて演奏するんだけど、松武秀樹さんというシンセサイザープログラマーの人が、キラキラ光る、わざと電飾でいっぱい光がつくようにした機材で目立せて、松武さん本人も舞台の真ん中に出して……。なんか、それだけで物々しいじゃないですか。そういう演出をして、メンバーには、「演奏するとき、いちいち頭を下げる必要なし。日本人は無表情で不愛想が有名なんだから」という指示もしたの。「その感じで怒涛のごとく、40分間、ばーっと演奏しちゃえ!」と。でもみんなも喜んでるわけ。「それは楽でいいですね」なんて(笑)

福田:たしかにYMOって無表情でしたし、まさにそういうイメージでした。

川添:ここで先述の、紀伊国屋ホールでのフュージョンフェスで、酔っぱらったトミー・リピューマがノリにノった話、もう一度思い出してくださいね。で、夏のロサンゼルスの野外ロックフェスティバルなんて言ったら、観客の8~9割りは酔っ払っていますよね。

福田:あぁ!(笑)

川添:感客全体、東京の紀伊国屋ホールでのトミー・リピューマ状態になっていたわけなんです。で、演奏が始まって、1曲目からえらいスタンディングオベーションになった。「これ、嘘じゃないの?」みたいな大当たりなんですよ。それでみんな喜んじゃってね。TUBESも袖まで来て、「すげえな、こいつら!」って言いながらステージを見ていました。それでまあ、渡辺香津美のギターテクニックって言ったら、向こうのロックギター弾きなんか、足元に及ばないくらいレベルも高いから、ものすごい盛り上がりになったんですよ。

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