『ホームレス支援の新しいカタチ~誰にでもやり直せる権利がある』 ホームレス支援団体『Homedoor』川口加奈氏×実業家 福田淳の対談【前編】

食うや食わずの日々を選ぶおっちゃんたちの「事情」

福田:自分の意思で、生活保護を利用しないと。それはどういう背景から?

川口:理由はさまざまですね。一つは扶養照会の制度です。たとえば、これまでずっと連絡を取っていなかった子どものもとに、「お父さんが困窮状態で生活保護を利用しようとしていますよ。あなたは養えませんか? 養えないという場合は、源泉徴収票を提出してください」などの連絡が行くんですが、それを恐れているケースです。

福田:ホームレスという現状を家族に知られるくらいなら、食うや食わずを選択する。

川口:そうですね。そこでまず一旦、『Homedoor』で働いてもらいながら、ゆっくりどうしていくかを考えてもらい、それで気持ちの変化があって、「生活保護を利用する」に変わる方もいるんです。ただ、二つ目の理由として、生活保護を利用しても、その次のステップがないことです。生活保護を利用して、生活が安定しても、結局仕事が見つからない上に、行政職員からは仕事を見つけてくださいと言われる状況に陥ります。それであれば、「ホームレス生活ではあるけれど、缶集めなどしながら自分で食べていくほうがまだいいのではないか」と思う人や、「自分で頑張れるうちは国に迷惑をかけたくない」と思う人も多いですね。

福田:それは、川口さんが14歳の炊き出しの経験で感じた、ホームレスの人の「謙虚さ」に通じるもの?

川口:はい。謙虚さからくるもの。「自分のせいなのに、国のお世話になるなんて申し訳ない」という。

福田:ビジネスマンの合理性では図れない、ホームレスの方の不器用さみたいなものを感じますね。川口さんは、どんなふうに感じたんですか。

川口:決して自己責任という言葉だけでは片付けられない事情があることを知って、それであればなにかお手伝いできることはないだろうか。生活保護は受けたくない、でも自力で這い上がりたいということであれば、その方法を提供できないだろうか、と。

福田:「選択肢が広くある社会のほうが豊かでは?」という前提があるわけですね。

川口:そうですね。ホームレス状態になる時、一つの要因だけではなく、いろいろな要因が重なっているんですよね。年齢の問題だったり、母子家庭の問題だったり、障害の問題だったり。そういういろんな方の背景に合わせて、多角的な角度から支援をしなければ根本的な解決には至らないんじゃないかという思いがあります。たとえば、発達障害を抱えている方は、コミュニケーションが必要とされる仕事の支援をしても、「人と話さなければいけない仕事は、これまでも散々やってうまくいかなかったから、それはちょっと無理」って言う人もいらっしゃったりするので……。
「こういう仕事あるけど、どう?」っておっちゃんに言ったとき、「いや、これは腰痛いわしには無理やわ」とか、「これは、ちょっと人と話すの無理やわ」とか言われたら、「じゃあ、こういう仕事もあるよ」「それもダメならこっちはどう?」って、もうぐうの音も出ないほど、「ニーズに合うものを用意しています」というぐらいにしたい。それが究極の形だと思っています。