【ニューメディアが拓く面白人生!】8ミリ映画から衛星放送、iモード、スマホアプリまで。ニューメディアの可能性を広げるのが醍醐味。@慶應義塾大学 メディアコミュニケーション研究所【中編】

16.どの企業もどうやって口コミで取り上げてもらうか、知恵を絞って考えている

当然、企業の宣伝戦略も変わってきます。昔はオウンドメディアといって自社でサイトを作り、たくさんの人に見てもらうために、Googleなどで検索されやすいプログラムを作っていたのですが、それはもう時代遅れで古い。今はどの企業もいかに皆さんに口コミで取り上げてもらうか、知恵を絞って考えています。わかりやすいのがLINEのスタンプですね。皆さんが欲しがりそうなスタンプを用意して、「うちの会社をフォローしてくれれば無料であげますよ」と。これは、昔流行った「コカ・コーラ買ってくれたら『スター・ウォーズ』のフィギュアを20体もあげちゃいます」という戦略と同じですね。デジタルプレミアムが流行っている背景にあるのは、ソーシャルメディア人気に他ならないと思います。

商品を初めて世に出すというとき、5億円ぐらい用意してもらって、テレビ局でプライムタイムにスポットCM何本か打てば、それだけで話題になり、2割ぐらいの人に認知してもらえて、結果的に小売店での販売面積を増えせたのは20世紀までの話なんです。今はテレビ見ない人が増えたので、そう簡単にいきません。スマホに時間費やす人が多いから、何か仕掛けたいけれど、テレビスポットみたいに割り込んで入るわけにいかない。その結果、ちょっと難しい言葉ですが、「コンテンツマーケティング」というものが今、流行っています。FacebookやInstagramを見ていると、「皆さんちょっと面白い話あるので聞いてくれる?」という案内がさりげなく挟まれることがありますよね? あれがコンテンツマーケティングです。「へぇ、ローラがそんなに面白いって言うなら、ちょっとSnapchatダウンロードしてみようかな」となればしめたもの。実はそれ、Snapchatがお金出している広告かもしれません。

17.日常生活で自然にシェアさせられるセンスをマーケティングに取り込みたい

これまで「上から下へ」と流通していた情報経路が、今は「横から横へ」と変わっています。いかに友達から友達へと話題を流通させるかに、成否がかかっている。先ほど、ちょっとお話しましたが、Instagrammerの中には、普通の読者モデルにもかかわらず、写真の撮り方やセンスのいい見せ方で50万クラスのフォロワーがいる人もいます。人気芸能人のTwitterに匹敵する数ですよね。当然、企業もこういう人たちに目をつけて、化粧品などを提供して「Instagram で取り上げてくれませんか?」と契約を持ちかけたりしています。タイアップ代として高い人だと1回300万円くらい取るそうですよ。1年に10回くらい仕事すれば、年収3000万ですからね、Instagrammerでも充分食べていけるようなマーケットができているんです。

皆さん、今後就職活動される際は、この辺りを意識して活動するといいかもしれません。今、どの企業も、日常生活で自然と横から横へとシェアさせられるセンスをマーケティングに取り込みたいと思っているので、「これからはソーシャルメディアの活動が大事です、こんなアイデアがありますよ」と提案すれば、「ちょっと仕事任せてみようか」という流れにもなるんじゃないかな。

18.世の中に100万個あるものなんてありきたりでつまらない

接触デバイスが変われば、当然、消費行動も変化します。そもそもなぜテレビメディアがあれほど流行ったかって、産業革命をきっかけに工場ができて、大量に物が作れるインフラが整ったことが大きい。その結果、大量の在庫を抱え込まずにできるだけ店頭に出すため、テレビで商品訴求をたくさんやったわけです。みんながテレビを見ていた時代は、みんなが同じものを欲しがった。でも、1人にスマホ1台の今は、「なんでテレビスポットで広告されているような車を買わなきゃいけないのか」という声も出てきます。コモディティ化されたユニバーサルデザインの車なんてダサくて乗ってられない。テクノロジーが進化すれば、自分がデザインしたかっこいい車を3Dでプリントアウトして、それに乗るのが当たり前という時代が来るかもしれません。

その過渡期にあるのが、実は「Makuake」とか「KickStarter」などのクラウドファンディングなんですね。「1万個限定でこういうすてきな腕時計作りますけど、皆さんどうですか?」と賛同者を募る。大量生産ではなく、限られた数しか作られない分、非常に個性的なデザインのものが出てくるので人気があるんです。最近、クラウドファンディングでしか物買わない人が増えてるんですよ。その最終形が、3Dプリンティングで自分だけが欲しい物を1個作るという究極の消費ではないでしょうか。本当にそういう時代がきたら、皆さんが関わろうとしているマスメディアはどうなっているのでしょう。企業はたくさん物を売る前提があったからこそ「テレビのメディア力はすごい。仲良くしなきゃ」と膨大な広告費を支払ってきた。それが「世の中に100万個あるものなんてありきたりでつまらない。これはたった1個しかないんですよ」という真逆のコミュニケーションが求められるようになったら、売り方を変えなければいけないので、今までの設計図そのものが通用しなくなる。そういうことも意識して今後のマスメディアの対応について勉強すれば、新しいマーケターとして、存在価値をアピールできるんじゃないか。工場で大量に作っていたものが3Dプリントで1個だけになる時代が来たときに、どういうイノベーションが起こせるのか。