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ソーシャルデザイン入門~「自分のため」から「社会のため」へ。多様化する価値観にどう伝えていくか~【前編】 Talked.jp

リングの購入が寄付だけでなく、気持ちの表明にもなる!

並河: よろしくお願いいたしします。「ファンドレイジングをデザインする」というタイトルにさせていただきましたが、2008年から電通ソーシャルデザインエンジンというチームで、社会のためのプロジェクトを自分で立ち上げたり、企業と組んだり、あるいはNPOのお手伝いをしながらつくってきました。ソーシャルデザインが意味するものって結構幅広くて、いろんなプロジェクトをやっているんですけど、ここに来られている方はファンドレイジングに興味があると思うので、その視点から見たときのソーシャルデザインを二つに分類してみました。
一つ目は、思わず寄付したくなるような仕組みをデザインするというパターン、もう一つが、企業と市民が一緒にできる寄付の仕組みをデザインするパターン、これは企業のマーケティング用語でいうと、「コーズリレーテッドマーケティング」っていう分野でもあるんですけども、この2パターンについて、僕がやってきたプロジェクトをいくつかご紹介します。
 まず最初のパターンですが、市民が非営利団体に寄付をするときに、それがどういう意味を持つ行為なのか、いつも考えています。僕自身は電通という会社でコピーライターとして、テレビCMをつくるところから始まって、やがて「伝える」という行為は、CMだけじゃなく、もっと社会のために役立てることができるのではないかと思うようになり、ソーシャルデザインの道に進んでいきました。

いくつか事例をお見せしますと、一つ目は、国際協力NGOジョイセフと一緒にやっている「チャリティーピンキーリング」というプロジェクトで、2011年3月にスタートしました。ピンキーリングって小指につけるものなんですけども、売り上げの一部が、タンザニアの妊産婦支援として寄付されます。とにかくかわいいものにしようと考えたものです。チャリティーグッズと知らずに単純に見た目だけで買って、後でチャリティだったんだと気づく人もいます。すでに、1000万以上の寄付になっています。リングの色ごとに学校、ファッション、仕事、恋などテーマが決まっていて、ウェブサイトでは、自分が買った色に合わせて、例えば、タンザニアの女の子たちの教育の問題を知ることができたりとか、テーマに沿った社会問題に興味が湧くような仕掛けになっています。恋人がいると薬指にリングをつけるように、遠い国の女の子のことを大切に思う気持ちをリングで表明できないかなあと思って、かわいいデザインに仕上げました。リングを購入することが単に寄付するだけで終わらずに、仲間と思いを共有したり、表明したりするような行為になればという気持ちでデザインしています。
http://gmgpj.com/index.html

寄付をして、失恋もすっきり忘れよう!

並河:  次は、ちょっと変わったプロジェクトなんですけど、「失恋ボックス」。映像を用意したので見てください。どういうものかっていうと、失恋した人が昔の恋人からもらって捨てられずにいた物を箱に詰め込んで送ると、その箱一つ当たり100円が途上国に寄付されるという仕組み。昔の恋を忘れられてすっきりするだけでなく、社会のためにもなるプロジェクトです。これもチームの仲間といろいろ話していたら、その中の女性が、「彼からもらった物は捨てられない」みたいな発言をしたことから生まれたアイデアなんですね。日本中見渡すと、埋蔵金じゃないですけど、そうやって失恋して捨てられずにいる資産みたいなものが実はけっこうあるんじゃないか、ファンドレイジングとして注目すべきじゃないか、というところから思いついたアイデアです。寄付っていう行為が、失恋を忘れてすっきりするという、従来の寄付とは行為にもなると。

「3.11」と検索するだけで寄付になる

並河:   続いて、企業と市民が一緒にできる寄付の仕組みをデザインするっていう2パターン目をご紹介したいと思います。先ほど福田さんの話にもありましたけど、何かをすると、企業がその人の代わりに100円寄付してくれるとか、そういうものってたくさんありますよね。あれはどういう意味を持つ行為なのかっていうと、市民が企業と一緒に寄付活動を行なえることで、それぞれの志が共鳴して、企業と市民の結び付きが強まるということだと思います。それ自体が、企業にとっては、マーケティングとか、ブランディングの意味があるということで、いろんなプロジェクトをやっています。
 まずは、2014年から始まった『Search for 3.11』というYahoo!のプロジェクト。ご存じの方、どれくらいいらっしゃいますか。ほとんどの方が手を挙げられましたね。さすがファンドレイジングのイベントですね。これはうれしいです。今年で4年目、4回目だったんですけど、3月11日にYahoo!で「3.11」と検索すると、Yahoo!が10円を東北復興に寄付するというプロジェクトです。今年は400万人もの方にご協力いただき、4000万円以上の寄付になりました。今年の寄付先は、東北の子ども支援とか、子どもの未来をつくるような団体6団体を選んで、お送りしました。
https://fukko.yahoo.co.jp/

また、3.11に、日本中のみんなが検索している様子を描いた映像も制作しました。手紙を書くように、一人一人が思いを込めて、3.11を検索しているようになっていて。2014年に始めたときには、こんなに多くの方に参加してもらえるプロジェクトになると思わなかったんですよね。当時、既に「3.11は風化している」ってすごく言われてたんですけど、やってみてわかったのは、「風化」って「忘れている」というわけじゃないんですよね。「3.11」という日のことを誰も決して忘れてはなくて、ただ自分にできることはもうないんじゃないかと思っている。そう思っちゃうことが風化なんですよね。自分もそうなんですけど、そのことにちょっと罪悪感もあったりして、罪悪感っていうとちょっと大げさですけど・・。震災の直後は、現地に行ってボランティアやっていたのに、最近は行けてないし、「もうできることも少ない」って。でも本当は今でも何かしたいと思っている人は多い。そういう気持ちにすごく刺さったのかなと考えています。

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