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アドバタイジングからブランディングへ Talked.jp

ターゲットを狙うことが本当にマーケティングなのか

福田:広告が企業にとってコストである以上、インベストメントでない限り、効率を求められちゃう。その究極の間違った方向が、アドテクによるデジタル・トゥー・デジタルのマーケティングだと思います。一方で、デジタル前の時代も、テレビメディアを使っている企業が、CPM換算したらテレビの何倍もコストがかかるのに、1万人しか集まらないイベントをやったりしますよね。それは、お客さんの心とか、体験とか、つながりが大事だという気持ちが企業のどこかにあったからだと思います。
昨年、大手広告代理店のイベント部の方から相談があって、「弊社は、大きいイベントは大体仕切っているけど、最近クライアントさんから、デジタルと接続しとらん、SNSを活用しとらん、という不満が寄せられる。今後提携していろいろ教えてくれよ」って言われました。今年になって、エクスペリエンス・マーケティングってワードが急に出てくるようになって、「点を面」にするようなマーケティング策を考えようって、再び身体性を取り戻そうとしている。そのとき邪魔になるのが、やっぱり費用対効果って話なんです。

柳瀬:そうですね。

福田:今のデジタルメディアは、どんなにターゲティングが合っているものであっても、テレビと比較できるようなメディア特性がないんじゃないかとか思ってます。柳瀬さんのお話を聞いて、クライアントも代理店もメディアの違いや特性を考えないまま、「1視聴=1ビュー」という極端な解釈をする間違いをおかしてきたんだなと。ものすごいトラフィックも無駄だったのかも。

柳瀬:残念ながら、インターネットの広告で、記憶に残るようなコンテンツはまだまだ少ない。広告は消費者に知ってもらって好きになってもらってなんぼです。かつてのテレビコマーシャルや広告コピーのように数十年たっても覚えている、という広告のコンテンツって、いまのところあんまり出てきていない。いやいや、広告のコンテンツの質よりも、ターゲットとなるお客さんに直接クリックしてもらっているから、ちゃんと効果はあるんです、という意見もあるとは思います。ただ、それが本当の広告効果、つまり売上やブランディングにどこまでつながっているか。なにせ、インターネット広告での収入をビジネスとしているネットビジネスの多くが、有名タレントを活用して、がんがんテレビコマーシャルをやって、ユーザーを集めているくらいですから(笑)

福田:ターゲットそのものも合っているのか。1965年の段階で「週刊少年マガジン」読んでいた人って少年でなくて高校生だったんです。その後、大学生、社会人となっちゃうから、専門化して小学生は「ぼくらのマガジン」で大人はそのまま「少年マガジン」と。内田勝さんがご存命のとき、よくおっしゃったんですけれども、メディアというのは総合化と専門化を繰り返すものであると。だからトライブ(族化)になったら非常に専門化が進む一方で、そのあとに再び総合化するものなんです。
うちのシンガポールのクライアントの社長が「ちょっとデジタル一回休憩しよう」と面白いことを言い出しました。今まで大きな売上規模にないブランドで、テレビCMに予算が割けなかった商品に実験的にテレビ広告バンバン打ってみたところ、アジアの中で一番人口少ないオーストラリアでも、ものすごく売れるようになった。あるシャンプーの銘柄で、メインターゲットが、髪が傷み始める30代の女性だったのですが、ティーンの連中が「これいいわね」って買っちゃった。雑誌の『an・an』を、中学生、高校生が大人びて買ったりするのと同じですよね。

柳瀬:背伸び消費をしていましたね、かつて。

福田:ターゲットを狙うことが本当にマーケティングの良いのかっていう議論が沸き起こりつつあるのが面白い。だから、ターゲットじゃないところにスピルオーバー(漏れている)していることが、商品ブランド全体の価値じゃないかという仮説を証明した。これってテレビではできるんですけど、デジタルってできないんですよ。

柳瀬:結果としてお客さんが増えて商いとしてうまくいけばいい。ターゲットが狭かったり、あるいは想定が間違っていたら、そもそも商いが成立しない。

福田:全部無駄になっちゃいます。

柳瀬:テレビCMで30代向けのシャンプーが16歳に届いちゃった「配達ミス」が、新しい市場をつくる、ともいえるわけです。

インターネット広告はブランディングに向いている

福田:狙った獲物(ターゲティング)があったから、そのターゲットより上のおばちゃんが買ったとか、娘が買ったということも含めて、ブランド・エクイティ(ブランド価値)はより高まる。それは、会社としてのアセットバリューにも繋がると思います。 世界で初めてCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)を名乗ったP&Gのジム・ステンゲル氏、今はコンサルティングをやっていて、僕のメンターでもあるんですけど、パンパースの売り上げを200倍も伸ばした実績があるんです。その彼の分析では、S&P500社の10年間のROIの伸びを調べたらマイナス7.9パーセントだったんですが、ブランド理念がある所ばっかり抽出した50社で採ると3.97倍、約4倍のROIの10年間の伸び率があったと。ステンゲル50社って言われているんですが、彼の試算では、日本の時価総額にはほぼ入ってないんだけども、アメリカの会社の時価総額の3割か4割がブランドエクイティじゃないかと。「ブランド価値って何か」っていうと、モエ・エ・シャンドンだったら、「酒を売ろう」じゃないんです、「楽しいパーティーの場を提供する」。ベンツも面白いんですよ。「成功の象徴となる」。IBMが、「地球を賢くする」だったかな。こういうふうに、社会に何らかのコミットすることをステートメントにして、従業員も、株主も、お客さまもその目標に向かっている。カスタマージャーニー(商品、サービスとお客様の接点を見直す)を構築してブランディングしているところは、他の会社よりも長続きして儲かっています。 今はアドバタイジングよりもブランディングが必要です。アドバタイジングしようと思ったら、企業の宣伝部が窓口となって電通、博報堂、WPPに行くしかないわけですけど、ブランディングは半年とか1年のタームでやらなきゃいけないから、短期的な費用対効果で測れないので経営のイシューになりますよね。ブランディングは経営投資だから、失敗もいっぱいあるわけですよ。長期的に見てブランドエクイティを高めることが成功のゴールなんです。アドバタイジングからブランディングの世界になるときに、IBMだとか、アクセンチュアだとか、デロイトだとか、そういう経営の視点から見た人が広告というものをどう位置付けるのか。そして、ブランディングって新しいジャンルができたときに、テレビをどうするか。今デジタルが過剰に取り上げられていて、昨日も、印刷業界から頼まれて講演したんですけど、「最新のデジタルマーケティングの事例をご紹介ください、先生」ってなるんですよね。印刷業界だけでなく、車造りでも、しょうゆ作りでも、デジタルが介在してないものなんて、この社会に一つもないので、デジタルだけについて語るのは意味がないんです。

柳瀬:「電気使ってます」みたいなものですもんね。デジタルやインターネット単体で切り取っても、意味がない。

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