logo

「お金」と「クリエイティブ」の話を考える

言葉のチカラが、社会を良くする Talked.jp

福田:こやまさんは、仕事の依頼に対して、どれを請けるか請けないか、何か基準のようなものがあるのでしょうか。

こやま:ワクワクするかどうか、が大きいですね。内容はもちろんですが、ご一緒にお仕事する方が、「この人と仕事できるなら、ワクワクするな」とか。あとは現実的ですけれども、ギャランティーの部分もあります。

福田:ギャランティーをどう考えるかは、とても大事ですよ。

こやま:そのどれかがあれば、どこかでワクワクできれば、というのが基準かもしれません。全然心が動かない、どうしても動かない時は、「どうしても興味が持てないので、申し訳ありません」とお断りする場合はあります。

福田:「心が乗らない」という場合、ありますよね。僕の場合、そこをうまく説明できないので、シンプルにお金でお断りすることが多いです。あくまでも僕は、ですよ。正しい正しくない、ということじゃなく。でも、そういうふうにお断りする方が、わかりやすいんです。

こやま:そうなんですか。その場合は、どういうふうに?

福田:最近ありがたいことに、以前にも増してコンサルティングの仕事依頼が急増しているんです。二年先までスケジュールいっぱいなんですね。そうすると、物理的にすべてお請けすることはできないし、需要と供給の関係で、時間当たりの単価があがります。そうするとクリエイティブ業界でよくある「今回は予算が少ないですが……」というオファーはなくなります。

こやま:それはすごい。

福田:先日、大手企業を定年退職されてコンサルティングをはじめた先輩が、「ちょっと福田さん、お話が」と仰るのでお会いしたんですよ。すると「定年後、年収が3分の1になった」と。それで、「自分はメディアにいた経験も長いから、福田さんの依頼だったらなんでも、安く請け負うよ」って、最後は営業されて帰られたんですけど。

こやま:うーん、なるほど。営業されたかったんですね。

福田:それで「先輩、僭越ながら、アドバイスいいですか」と。「こんなやり方をしている限り、先輩ずっと貧乏です」って生意気ですけどもつい言ってしまいました。「何でもやる、安くてもいい、という分野じゃないんですよ、コンサルティングは」と。なぜなら僕らは、時代を空気を売っている。だから、僕に依頼をされるということは、「超付加価値サービス」としてお願いされているわけです。仮に予算が100万だったとして、「20万円はディスカウントしますよ。100万を80万にしましょう」という提案は、クライアントに対して、僕は絶対にしません。そこで、予算が合わないとなれば話は終わりでシンプルなんですよ。
でもその先輩みたいに、「安くてもやるよ」という言い方をしたら、金額はずっと上がらないんですよ。自分のやっていることを自分で、「いくらでもいい」と言ってしまったから。

こやま:なるほど。

福田:先輩には、「その言葉を言ったら、おしまいなんです」と。「僕、関西人だから、いくらでいいと言われたら、じゃあ1円で、と言いますよ」と。でも、1円では大した仕事にならないから、結局ぜんぶダメなんです。こういうと、すごくキツイ人になってしまうんですけどね。

こやま:そうか。「自分はこの金額なんです」と伝えればいいんですね。

福田:そうです。クリエイターの方は、断ることを怖がる傾向にあると思うんですけど、断っていいんですよ。ファーストリテイリング(ユニクロ、GU、セオリーなどの複数ブランドを展開する企業)のグローバルクリエイティブ統括であり、世界的クリエイターのジョン・C・ジェイ氏は、とにかく断るそうです。だから、みんな頼みたい。つまり、「価値の逆転」が起きるんですね。

こやま:手に入らないものだから、なおさら欲しい。

福田:そうです。でも精神面ではタフですよね。「嫌われるかもしれない」ということが、つきまとうから。

こやま:その匙加減は、フリーランスのクリエイターはみんな、一度はジレンマを抱えるテーマだと思います。

福田:そしてもう一つのテクニックは、断るまでのリードタイムを短くする。そのほうが、悪い印象を残さない気がします。

こやま:わかりやすさ、シンプルさが大事。

福田:そう。でも、熱くて面白くて、社会を良くする案件となれば、それは関係なくやります。つまり、「自分がやりたい」というクライアントやサービスに対しては、それは自分に対する投資ですから、たとえギャランティーがなくてもやらなくてはダメなんですよ。

こやま:わかります。それは、本当にそうですよね。

福田:なので、請け負う仕事とやりたい仕事のお金については、理屈としてはそういうふうに合えばいいかなと思っています。このtalkedシリーズも、あれこれ偉そうなことを言いながら、対談相手の方々のお時間を頂いているわけなんですが。あくまでも自分がやりたくてお願いしている立場なので、自分の時間は無限に使っていいと考えています。
そういうふうに、生きていくためにやる仕事と、自己実現のためにやることを頭で決めてやる。それは、自分の「プライシングメニュー」を出すときの心構えとして、大事なことかなと思っています。

こやま:今度、福田さんにご相談していいですか(笑)。

福田:もちろんです(笑)。

TOPへ