福田:最後に、この雑誌の読者にはテレビ局の制作の方が多いと思うんで、そういった方々に向けて、今求められるプロデュース力はどう身につければよいか、一言いただけますか。
真木:さっき話した「失敗を恐れない」みたいなことは、たぶんピンと来る人も多いだろうし、きっと当たり前の話だと思う。
あと写真を撮る時、昔はカメラのファインダーを覗いていたじゃない。あのファインダーで見る景色は、液晶パネルで見る景色とはぜんぜん違うんだよね。プロデューサーもそういう、自分のやりたいことのファインダーを意識すると、景色が違って見えてくると思う。たとえば僕の場合だったら、今はいかに海外と組むかを考えている。メキシコを拠点にして中南米のマーケットを拓こうとしてるんですよ。社員から見ると「社長また何やってんだ」みたいなことばかりかもしれないけど、でも僕の中では一つひとつが自分のファインダーから見える景色に収まっているんです。
別の言葉で言うと、アイコンになるような仕事をしようということです。これは自分のスペシャルなんだって言えるような。『この世界の片隅に』は完全にアイコンだし、それがここまできたから、次のいろいろなビジネスに繋がる。僕も十数年ぶりに映画をやったから、ものすごくいい経験をしました。
そういう経験をしたから、以前プロデュースした映画『千年女優』も、今の自分の力なら当てられたなって思えるようになったんだけど、でも当時の「ちくしょう」って気持ちを執念深く覚えていたことが、今の成功に繋がったとも思う。成功にノウハウなんてないけど、失敗のノウハウは積み重ねられるんだよ。そのノウハウの積み重ねがあると、メディアが刻々と変化していくような話を聞いた時に、それが自分の知識になるんです。
だけど一般的な会社は人事異動があるし、ましてや定年もある。やっと仕事がわかってきた時に定年で辞めちゃったりするでしょ。話していて「こいつ、わかってるな」って年代になった人が辞めてくわけだ。それは残念だよね。
福田:プロフェッショナルな仕事において、年をとることは何にも苦じゃないですよね。
真木:年とった方がいいよ。絶対年とった方がいい。
福田:だから若い頃に戻りたいって人がいますけど、僕はまったく気持ちがわからないんですよ。
真木:でも肉体だけは戻りたいよな(笑)。