logo

スペックワークにはNOを!

言葉のチカラが、社会を良くする Talked.jp

福田:お金とクリエイティブの関係って、今こそはっきりさせなきゃいけないと思っているんですよね。たとえば僕がこやまさんにコピーのお仕事をお願いして、素晴らしいものを書いていただいても、こちらの営業力不足でコンペに負けたりするじゃないですか。そのときに、こやまさんに1銭も払わないっていうのはひどいなって思っているので、たとえコンペ案件だったとしても、「落ちたときにもこれぐらい払います、トータルこう払います」と決めてお願いすべきじゃないかなと。だって、コンペの段階では、コピーライターの方の作業って、大部分終わっているじゃないですか。
コンペで通る・通らないというのは、営業側の話であって、クリエイターの方の領域ではないというか。

こやま:コピーライターの仕事は、そういう側面はたしかにとても多いんです。「いろいろ考えていただいたけど、今回は社内で決めたコピーになっちゃったので、申し訳ありませんがギャラを安くしてもらえますか」とか。でも「だったら最初から社内で考えればいいのになあ」みたいな……。私が出したものだって参考にしているはずだし、時間も奪われている。そういうモヤモヤを抱えながらも、「分かりました」というしかない、そういうケースも過去にはありました。

福田:そのモヤモヤから学ぶものが、これからのクリエイティブ業界に本当、大事かなと。だって、僕たちがやっていることって目に見えないから、「タダでいいだろう」って思われかねない業種じゃないですか。実際に、思われることもあるし。

こやま:福田さんは、とくにそうですよね。しゃべりながらアイデアを出されるから、余計。

福田:お金とアイデアの話でよく言うんですけど、以前先輩に頼まれて、「国から予算8億引っ張ってきて、地方振興やることになったからよ」って。「フクちゃんはアイデアマンだから、いくつかアイデア出してよ」って言われたので、三つぐらいアイデア出すわけですよ。すると、「さすがフクちゃん。じゃあ来週また時間取って」って。さすがにそこで、生意気ですけど言いましたね「先輩、ちょっと待ってください」と。「僕だってこのアイデアを出すために、人に会ったり、旅をして街を歩いたり、いろんなことをしているんです。まずちゃんとお金の話をしましょう」って。すると急に鬼の形相になって、「お前、オレからお金を取ろうっていうのか!」って言われて。

こやま:それはひどいですよ。本当に。

福田:だから僕は、二度とその人には会わないと決めました。怒りはしませんけど、その1回の被害で済んだと思って。「先輩だけど、やっぱり最後にハッキリ言ってよかった」と。誰が褒めてくれるわけでもないことだから、自分で自分を褒めながら帰ったんですけど(笑)。

こやま:でも、クリエイティブとお金の話っていうのは、多くのクリエイターが「どうすればいいかな」と気にしていることではあります。

福田:日本ではあまり定着していない言葉ですが、そういうのを「スペック・ワーク」(SPEC WORK)といいます。コンペのためにアイデアを出させて、勝ったらお金を払うけれど、負けたら払わないというしくみのことなんですよ。そんな業界のスペック・ワークを長年疑問視していたカナダの広告代理店 が、反スペックワークのPRビデオを作って話題になって。

こやま:私、福田さんがFacebookでシェアしていたその記事を見て、シェアしました。

福田:そのカナダの広告代理店は、スペック・ワークには一切参加しないと宣言したにも関わらず、ずっと成長を遂げているんですよね。PRビデオでは、あるおじさんが老舗の食堂のおやじのところに行って、「ここのパスタは美味しいらしいじゃないか」と。「それを出してくれよ。うまかったら金を払うからさ」って言ったら、店のおやじに「は?」って、追い出されるんですよ。それずっとセミドキュメンタリーで撮っていて。あれは、日本の広告業界も一緒だなと。

こやま:本当にそうですよ。競合プレゼンをやって落ちたのに、数カ月後、「あれ、見たことある。こっちが出したアイデアじゃないか?」っていう。そういう話って、よく聞くんですよ。

福田:なんでしょう。今、アメリカに対して中国が物申すインテレクチュアル・プロパティ(知的財産)をしっかり管理しろという流れがあるじゃないですか。でも広告のコピーライティングの著作権やアイデアは、その知的所有権以前みたいな扱いだから、全然議論されてないんですよね。だからもう、みんながみんな、コンペに参加しなきゃいいと思うんですよね。
 誤解を恐れずにいえば、コンペというのは、決めきれないクライアントの煮え切らない態度の現れにすぎないんですよね。もっと決めてから、ねらい撃ちで言えよと。そのためにはクライアントもちゃんとマーケットを知らなければいけないし、そのプロであるべきで。人をコンペで計るんじゃないよっていう話です。だから、僕も、前職の会社では、「もうコンペには出ない」と決めていました。

こやま:福田さんらしい、潔さです。

福田:クリエイティブの価値が正当に評価される、成熟した社会を目指したいですね。 今日はお忙しいところ、貴重なお話を本当にありがとうございました。

こやま:こちらこそ、ありがとうございました。

(了)

TOPへ