『巨人の星』『ゲゲゲの鬼太郎』を生み出した伝説の編集者、内田 勝からラストメッセージ

Talked.jpby Sony Digital Entertainment

『巨人の星』『ゲゲゲの鬼太郎』を生み出した伝説の編集者、内田 勝からラストメッセージ

ですから、ちょっと遅れて、放送の世界にもいよいよ専門チャンネルの時代、つまりNHKや民放の「総合チャンネルの時代」から、CS放送やケーブルテレビの「専門チャンネルの時代」が、新しく生まれ育ってきているお客さん=消費者にドンピシャリの放送メディが登場した訳です。それを見て私は「待ってました」という感じだったんです。 今やCS放送、ケーブルテレビは200チャンネル近くある訳ですが、そういう専門化が進んでいくということです。

さて、もう少し突っ込んだ形で、では1960年以降の「お産革命」、「無菌室ベビー」は、どういう意識構造、あるいは行動様式を持っているのかというところを考えてみたいと思います。僕はずっと出版社で編集者としてやってきたので、出版の仕事の基本は何かといえば、娯楽を提供するとか、伝達ということで、伝達方法がメディアということだと思うんです。

ですから伝達方法というのは、活字もあるし、もちろんコミックもあるし、アニメ誌もあるし、それから『ホットドッグ・プレス』のようなカラーグラビア雑誌、カラー写真やカラーイラストと活字を組み合わせたものもあるし、それが色々なメディアです。 あるいは音楽でも、音楽を伝えるためには、ウォークマンとか、そういうインフラが必要なわけです。そういうのが伝達方法、メディアということだと思うんです。

60年代以前に生まれた、お産婆さんに取り上げてもらった世代を仮に「A」とします。 60年代以降に生まれた、無菌室ベビー、お産革命で生まれた子供を「B」、その後の世代を「C」とします。

まず「A」の世代です。僕なんかはまさにそうですが、これは活字中心です。 「B」になると、今度は情報や娯楽の伝達方法は映像中心です。この橋つなぎとして、「C」が関わってきます。「C」というのは携帯電話の世代のことです。

僕などは1935年生まれで、根っからの「A」、活字世代です。 滝山さんたちベビーブーム世代というのは、ちょうどこの「A」と「B」の橋渡し世代と言いますか、一番最初に漫画を熱心に読んでくれたのは、ベビーブーム世代だった訳です。

 それが「B」の世代になると、情報伝達媒体として中心になるのは映像です。 漫画というのも映像なんですが、漫画は動かない、静止画です。 それから音が出ませんし、色がついていない、モノクロです。アニメーションというのは、音が出て、色がついて、動くというようなことで進化してきた訳です。 これはメディアの進化と考えることが出来ます。

携帯電話は活字プラス映像という形を持ったメディアと言えると思います。 つい昨年の文芸書の売れ行きベストテンの内の半分は、携帯ノベルスということです。

何が言いたいかといいますと、「A」の活字世代と、「B」の映像世代、どこがどう違ってくるのかということです。

「A」の世代というのは、「春が来て暖かくなったので、上野の山に桜が咲きました」という文脈で、論理的なんです。 こうなって、こうなって、こうなりました。 これが活字を情報伝達媒体に使った場合の1つの文法なんです。 それを僕は「生理的情報伝達」と呼んでいます。 それから「B」の映像中心のメディアとはどういうことかといいますと、「春になって上野の山で桜が満開」というカラー写真を1枚、別にビデオでもいいんですが、そのカラー写真1枚だけで、ああ、もう上野の山に春が来たんだな、ことしも上野の山は桜で満開かと認識する訳です。

直感的でオタク的な昆虫世代

僕は『少年マガジン』の問いに、「1枚の絵は1万字にまさる」という、いわゆる「劇画宣言」をしました。
これが講談社の中ではすごく顰蹙を買い、袋だたきに遭うんです。 でも本当は、1枚の絵は1万字どころか、10万字あっても足りないくらいです。 1枚のカラー写真を文章化しようと思ったら、木の葉っぱ1枚1枚がどうなっているのか、全部を言葉で表現しなければいけなくなってしまい、100万語あっても足りないくらいです。 そこを遠慮して「1枚の絵は1万字にまさる」と言っただけで、講談社は活字の出版社でずっとやってきましたから、漫画が売れたからといって、言いたい放題言っているというので、さんざんひどい目にあって、あちこちから石が飛んで来たんです。

それはさておいて、映像は、パッと見てパッと判る、これが特徴だと思います。 どういうことかというと、「A」の活字が「線的情報伝達」としたら、「B」の映像は「面的情報伝達」と言えると思います。 「A」が論理であるのに比べ、「B」はある種の直感です。直感的理解、ひと目で判るということです。