「ネットCM」が「テレビCM」を超える日 | Talked.jp

Talked.jpby Sony Digital Entertainment

ばんば 淳一 氏

ばんば:そうですよね。企業のマーケティング部なんかも、限られたメディア露出の中で告知するとなると、あれもこれも入れたがる。自分達の心配事を全部入れちゃって、結局、お客さんが見たときに何を言っているのか分からなくなるとか。バイラルなら逆に、何を言っているのか分からない方がよくて、自分が考えるというか、あとで調べてみようとなる。お客さんが受け手じゃなく、自分のこととして受け止めてくれるし、考えてくれるんです。

福田:それって人間同士のコミュニケーションに近いですよね。飲み会では、俺のこと分かってくれって主張する人より、たとえば、高倉健さんみたいに寡黙だけれど存在感のある人の方がモテたりしますよね。たくさん言いすぎちゃ駄目ってことでしょう。企業は15秒という制約の中で多くのことを語り過ぎていたので、今はちょっとスキップされる時代なのかもしれません。だから、未完成じゃないけど、ある種の問題を含んだものを提示することで、さっきの西監督の映像みたいに、「すげえな」っていうのと、「死ね」っていう、両極端の反応がすぐ出ちゃうわけですよ。Webというメディアはね。でもそれが面白い。ネガティブな反応に、いちいち送り手がキレてたんじゃ、もう仕事にならないですから。

ばんば:僕もこの間、不二家のWeb用長尺CMの企画と演出をやらせていただいて、作るときにまず考えたのは、見る人にちゃんとウケるものを狙っていこうと。Webムービーは、人に委ねる、相手に委ねるものなので、お客さんはどんなものを見たがっているか?どんなことを楽しいと思うか?それに対して、俺はこう思うぜ、みたいな。 もっと言うと、企業はこの商品を認知させたい、という態度まる出しでやっちゃ駄目だろうなと。だから、スタッフにも「受け狙いでいく」って宣言して、キャスティングも音楽も何もかもどうやったらお客さんが好いてくれるかが第一。それは、媚びるのとは違って、要するに、キャッチボールだと思うんです。こういうのを作ったけどお客さんどうよっ?て投げかける感じ。

福田:不二家さんの「大人のLOOK」は、コスプレで有名な近衛りこちゃんでしたね。初めての映像出演ということで話題になって、10万ビューをすぐに超えた。いろいろなサイトの関連記事を見たら、「不機嫌な女の子に大人のLOOK食わせときゃいい」みたいな切り口の記事があって、でも、そういう解釈でもいいと思うんですよ。だから、パッケージいいでしょとか、すごいカカオ使ってますって話は、自社サイトやCMで表現すればいい。「大人のLOOK」がバイラルの作法として当たったのは、そういう点かなと僕は思いました。

「みんな知ってる」から「自分だけが知ってる」が大事

福田:バイラルのマーケットがアメリカ並みに大きくなったら、テレビCMや企業広告はどう変化していくのか、また、変化していかなきゃいけないのか、どう思われますか。

西:テレビも映画も、すごくお金がかかるんです。特に映画は、最低でも1億円。映画館の大画面でも耐えられるようなクオリティーにはそれだけかかるんだと。それが、Webになると、高画質はあまり関係なくて、友達とわぁわぁ言いながら撮っている方がよかったり。むしろ、プロの映画やテレビの人たちが、あたかも普通の人が撮ったかのように、わざと画質を悪くしたり、ハンディーで撮ったりとかしていますよね。それが数字を稼いでるっていうのもありますから。ただその弊害というか、企業が「安くできるんだよね」とか言い出してるんですよ、最近。それ、非常に困るんですよね。

福田:二極化するんじゃないかな。ゴージャスな方向にいく人は、数は多くないかもしれないけど、お金払ってちゃんとオペラ見に行きたいとか。でも、ほんの暇つぶしでいいから、2分ぐらいのバイラルムービーでも見流そうかなとか。楽しみ方は多様化していくだろうと。たとえば、活版印刷が15世紀に発明されて印刷技術が格段に進歩したのに、日本ってずっと、浮世絵のような古いやり方も廃れなかった。逆に、Kindleとかの電子ブックがアメリカではヒットしていますけど、日本ではまだまだ普及しているとは言い難い。そう考えると、古いものが廃れて新しいものに切り替わるというより、いろんなメディアが共存して、それぞれの趣味に合ったものを見つけてくるのかなと。 今、趣味ってものすごく細分化されて、企業側からすると、一つの商品だけに頼っているのはかなり危ない。それは広告にも言えて、CMもやれば、バイラルムービーやLINEスタンプもやる、という風にうまく組み合わせて活用していかないと、マーケティングは難しいかと。ただ、その中で一番使いこなせないのが、バイラルムービーの分野だとは思っています。

西:みんなが知ってるものは、わざわざバイラルしないですよね。もしかしたら自分だけが見つけたかもと思って「ねぇ、知ってる?」と出していく。だから、「私が先に見つけたんだけど」っていうのは重要だと思いますね。

福田:それ、よく分かります。「俺とお前だけだよ」っていう話は、大体、次の日クラス中でうわさになってる(笑)。でも、最初に聞いた人になりたいっていうのありますよね。

ばんば:送り手である企業が気をつけなきゃいけないのは、CMより予算を安くできるし、カンタンだみたいな感覚ですね。最初にある作り手達が喧々諤々して、悩んで、けんかして、新しい表現を見つけて、ポンとヒットを出したら、その亜流を作ってやっていくところが大半なんです。コストも、前例というか、見本があるから安くできると思っちゃう。ただ単に、似たものを作っていくっていうことに対して、もっと自覚的になった方がいいと思います。目の前に非常に手軽なツール、流行りのツールがあったら使いたくなります。けれど、周りがみんな同じものを作っていたら、それは埋もれてしまいますから。