logo

「優れているな」と感心したアイデア事例

今日のテーマは「デジタルマーケティング事例」ということですので、最近僕が「優れているな」と感心したアイデアについて、ご紹介したいと思います。じつは、ほぼアナログの事例ばかりなんです。なぜなら、印刷を含め、今デジタルではないものというのは、インフラ面においてほぼないですよね。工場の管理だってデリバリーだって、ドローンを飛ばすとか、AIで人の行動見るとか、みんなデジタルです。あまりに当たり前で、デジタルについて語ることって、じつは何にもないんです。

【ヒューストン空港のバゲッジクレームの例】
ヒューストン空港では、「荷物が出てくるのが遅い」という不満が長年あり、地元の人たちが、ユーザーインターフェースを考えるコンサルタントに改善を求めました。この問題を解決した方のアイデアが素晴らしく、バゲッジクレームを歩いて8分もかかるところ、わざわざ遠くに持っていったんです。そうしたら、クレームがなくなりました。こんなのは全然デジタルじゃなくて、むちゃくちゃアナログですよね。でもこういう「逆転の発想」こそ、AIが進化しても、絶対に負けない人間の知恵の部分なのかなと思います。

【オランダの老人ホーム】
次はオランダの「ヒューマニタス」という老人ホームの事例。学生に「毎月30時間、高齢者と一緒に時間過ごしてくれたら無料で入居できる」と提案したんです。これを考えた人も偉いですね。貧乏な学生と、話し相手が欲しい高齢者。双方にとって非常に満足度の高い、今や人気の老人ホームになっているそうです。

【「ナショナルジオグラフィック」のブランド理念】
ネイチャー誌『ナショナルジオグラフィック』は、80年代中盤に世の中がケーブルテレビブームになったときに、「ナショナルジオグラフィックのチャンネルをやろうよ」と提案しました。しかし当時、雑誌社がテレビ局をやろうなんて、頭がおかしいんじゃないかと思われました。ところが蓋を開けてみたら、今のナショナルジオグラフィックの8割が、じつにテレビの売り上げなんですね。雑誌は2割です。彼らは自分たちの仕事は「雑誌をつくること」とは思ってなかった。もっと広い視野で、地球の自然、豊かさをどう全世界の人にデリバーするか考えていたんです。やっぱり、このように「ブランド理念」をもっている企業こそが、成功している好例といえます。

【帝国ホテルのクリーニングサービス】
とあるテレビ番組で、帝国ホテルのクリーニング係のマネージャーが「普通のクリーニングと違い顧客の顔が見えないので、お預かりしたシャツとかドレスがお客さまだと思って一生懸命やっています」と語っていて、とても感動しました。帝国ホテルのクリーニングは、「染み抜きしてくれ」とわざわざ言わなくても全部チェックして、染みがあれば抜いてくれるんです。「帝国ホテルでクリーニングしたいから泊まる」というお客さんもいるそうです。業界では「カスタマージャーニーが行き届いている」という言い方をしますが、自分たちがやっている仕事の最終形は、その商品やサービスを受けた人の気持ちを想像して、満足してもらうこと。そういう意識がデジタル時代の今こそ、肝になる気がします。

【大阪市の文の里商店街の事例】
この商店街はシャッター商店街になりつつあり、とても寂れていたのです。が、電通の一流クリエイターがポスターをつくり、ソーシャルメディアに載せて全国区になりました。一店一店、お店の誰かに出てもらい、すべてにキャッチコピーを付けたんですね。薬屋さんの場合は、『アホにつける薬はあらへん』と書いてあります。化粧品屋のおばあさんは、『男のために化粧してるうちは、お子ちゃま』。これを全部の店舗でやったら、すごい人が来るようになった。売っている物は同じなんですよ。こういう発想とアイデアを持っているだけで、新しいコミュニケーションが生まれるというのが非常に面白いなと思います。

【下北沢B&B】
僕の友人の博報堂ケトルの嶋浩一郎氏が主宰している本屋さんです。「ビールが飲める本屋」というコンセプトで、ずっと黒字なのだとか。なぜかというと、ベストセラー作家を呼んで朗読をさせたり、サイン会したり、コミュニケーションが取れる。つまり、本屋であって本屋ではなく、「コミュニティースペース」なんですね。「本屋は人と人が出会う場所」というブランディングで成功した例です。しかも嶋さんの宣伝方法というのは、下北の駅前でちらしを配っただけ。つまり、あとは口コミなんですね。レクサスなどを手掛けてきた人だから、ハイエンドなデジタルマーケティングももちろん長けておられるのですが、「点を面にする」というソーシャルマーケティングに徹したんですね。「B&Bは、いつも面白い人が来る」と作家が投稿すれば、その作家の10万人のTwitterのフォロワーに拡散されます。ちらしプラス10万人のフォロワーということで、昔よりも飛躍的に費用対効果が高かったそうです。

最後の事例にしますが、先日とある百貨店の社長から「店に全然人が来ない」という相談を受けました。その時に、NYのメトロポリタン美術館の例をお話したんです。「写真がうまい人は休館日に集まれ。館内で好きに撮っていいよ」と開放したら、2013年には4000人しかいなかったフォロワーが、なんと35万3000人になった。ただ、展示作品を撮るだけでは、ここまで注目されませんよね。さらに「仮面舞踏会をやろうよ」と言いだす人がいて、自分と有名絵画が入る写真をどんどんインスタグラムにアップしたところ、人気を集めるようになったんですね。
そして「なぜ百貨店では写真を撮っちゃ駄目なんですか?」と聞いたところ、誰も答えられませんでした。百貨店で写真を撮ると、店員さんがサーッと来て「ここはやめてください」って言われちゃう。だから、その社長さんに「インスタ映えする店舗をつくってください」とお願いしたんです。「この商品いいわね。家に帰って、Amazonで検索して買おう」なんて思わせては駄目なんです。極端な話、「3Dプリンターで欲しいものをすぐプリントして売ります」というぐらいの独自性を出していかないと。Amazonがトイザらスを潰す時代ですが、リアルな店舗にしかできないこともあるはずです。

TOPへ