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学校は「コミュニティを提供する場」

魚と海が教えてくれた経営論Talked.jp

福田:僕が客員教授として出来る範囲は限られているかもしれませんけども。岡本学長に初めてお会いした後、キャンパスを歩いていたら、ちょうど卒業展の後だったんですね。「横浜美大に入学するまで、一度も筆を持ったことない」という学生の方が、金兎賞(*2)を受賞したというお話を伺って驚きました。荒 星輝さんという絵画コースの学生の人でしたけれども。

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平成29年度 金兎賞受賞作品 「Live on」
絵画コース 荒 星輝(油彩162cm×162cm×4枚)

岡本:そう、彼は素晴らしい絵を描きますね。

福田:その彼とちょっと話をしました。「受賞に付いている海外研修でニューヨークに行くんです」というので、僕の知り合いのギャラリーと、「ギューチャン」の愛称で知られる日本の現代美術家・篠原有司男(しのはらうしお)さんのアトリエを訪ねたらいいよと紹介したんです。彼、本当に行きましたよ。その後連絡があって、ものすごく喜んでいました。 たぶんその経験って、一生忘れないと思うんですよ。だからそういうつながりを教えるのが先生であるべきかなと。先生が社会のことをあまり知らなくて、テクニカルなことだけ教えていても、学生にとっては本当の進路につながらないんじゃないかと思って。

岡本:大事ですね。僕ら科学者の世界でもそうだけど、留学したい人に、どこに行くべきかについて助言ができる先生でなければ駄目ですね。僕自身も「人が集まっている場所」を知っている先生に巡り会えたことは、とても良かったなと思います。

福田:わかります。要するに、大切なのはコミュニティーですよね。 サンフランシスコ発のスタートアップ企業で「WeWork」というオフィスレンタルの企業があるんです。時価総額円にして2兆2000億円という、急速に伸びたその企業は、コミュニティを提供したことがヒットの要因だったんですね。たとえば「仮想通貨などのハイテクをビジネスにしている方は集まってください」と。するとオフィスをレンタルした人同士が交流を持つことができて、ビジネスが倍になる。単なる場所貸しでなく、人間関係を提供したことで、世界的な大ヒットになったわけです。  学校も同様で、たんに「知識をもっている先生が生徒を教える」ということだけではないかもしれませんね。つまりコミュニティーを提供する。先生は、新しい若い友達できたと思って関わると、僕は楽しいと思うんですよ。 なので僕も横浜美術大学で、コミュニティづくりの一助になれたらと思いますね。たとえば今、アートを勉強している学生の方がどこに就職するかというと、選択肢に直結しているのはやっぱり広告代理店なんですよ。建築はもう少し選択肢に幅があるのかもしれませんが、クリエイティブというとそうバリエーションは多くはないんです。でも広告代理店のクリエイティブチームにとって、アートが好きで絵が描ける人は大事な人材です。いくらCGの時代なったからといって、自分の手で描けるというのはすごい能力ですから。そういう学生を集めて、コミュニティを作ったら面白いなぁと。学校に行く目的は、とくに後半については、就職と直結してないと意味がないですから。

岡本:僕も実際に学生をよく連れ歩くわけですよね。現場に連れ歩いて話をしたり、紹介したり。そういうことがどこの学校のカリキュラムの中にも取り込まれていなければならないと思いますね。だから外との繋がりが薄い先生は、そのパイプを濃くしていただく必要があると。

福田:厳しいですけど、おっしゃる通りですね。

岡本:もちろん、基礎科目をきちっと教えることは不可欠です。でも基礎科目を習得していくプロセスの中で、「社会との接点の中で、自分をつくる」という視点が絶対に必要だと思うんですよ。つまり、学校外の空気を吸うということ。学校内で学問的なカリキュラムを体系付けて組んだあとは、外と対峙するんです。 するとこれまで積み上げてきたものが、一度ゴチャゴチャになるんです。それは、社会に出てからみんな経験することですよね。先生は、学生が社会に出る前に、いろいろな体験をさせてあげるべきで、そのためには先生が人生経験をいかに積むかは重要ですね。学生にとっては、自分ではたどり着けないような人との出会いをもらったというのは、もう一生の宝なんですよ。

福田:大事ですね。そう思います。今の広告業界で俳優とかモデルを起用するときに何が基準になるかというと、その人がソーシャルメディアでどれだけのフォロワー数がいるかどうか。これも極めて現代的ですが、ある意味では考え方のベースは同じで、「あなたはどれだけ、社会との接点を持っていますか」ということを問われているわけです。外見が美しいとか、そういうことはもう関係なくて、本人のキャラクターがどれだけハチャメチャでもよくて、社会性が重要なんですね。

(*2)…横浜美術大学の卒業制作で最優秀成績を修めた学生(1名)への奨励を目的として、賞状および海外美術研修が贈呈される賞。

(後篇へ続く)

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