魚と海が教えてくれた経営論

魚と海が教えてくれた経営論(後編)

構成:井尾 淳子
撮影:越間 有紀子
2018年4月19日

岡本 信明氏(写真左)

1951年愛知県生まれ。1974年 東京水産大学増殖学科卒業。1996年に東京水産大学教授、2012年東京海洋大学学長を経て、現在は学校法人トキワ松学園理事長、併設校横浜美術大学学長。研究分野は魚病学・魚類遺伝育種学。金魚博士の異名をもち、素人金魚名人戦にも参加。さかなクンの恩師としても知られる。主な著書に『どんぶり金魚の楽しみ方 世界でいちばん身近な金魚の飼育法』(共著・池田書店)『ときめく金魚図鑑 (ときめく図鑑)』(共著・山と渓谷社)『金魚 KINGYO ジャパノロジー・コレクション』(共著・角川ソフィア文庫)など多数。

福田 淳氏(写真右)

ブランド コンサルタント。1965年、大阪生まれ。日本大学芸術学部卒業。 ソニー・デジタルエンタテインメント創業者。 横浜美術大学 客員教授、金沢工業大学院 客員教授。 1998年、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント社 バイスプレジデントとして、衛星放送「アニマックス」「AXN」 などの立ち上げに関わる。 NPO法人「タイガーマスク基金」の発起人をはじめ、 文化庁、経済産 業省、総務省などの委員を歴任。 2017年、カルティエ提供「チェンジメーカー・ オブ・ザ・イヤー2016」を受賞(日経BP)。近著に『SNSで儲けようと思ってないですよね?世の中を動かすSNSのバズり方』(小学館)がある。

人間の生んだ物流システムの矛盾

福田:聞くと、養殖ヒラメの3分の1は岡本理事長の特許で作られているということなんですけども。養殖と天然の魚っていうのは、どういう関係性にあるべきなんでしょう。たとえば食として捉えると。

岡本:食として捉えれば、両方を利用すべきでしょうね。養殖は囲いの中で計画生産しますが、小魚などの餌が必要です。増殖は稚魚を海に放して自然に育ったものを獲るので、うまくいけば効率的です。残念なことに、獲り過ぎることなどないと思っていた天然の魚ですが、エンジンや機械の性能の向上で漁獲能力が飛躍的に向上して(漁獲圧が高まる)、漁場に魚がいなくなるということも起きているんですよ。養殖ものも天然ものも美味しくいただきましょう。

福田:獲った分、人間はちゃんと食べているんでしょうか。

岡本:すべて食べればいいんですけどね。獲れたとしても、商品価値のないものは捨てられています。船の性能が良くなって、遠くまで行けるし、大量に獲ることができる。でも、その大量に獲った分の商品価値は陸で値段が決まりますから、その価値があるものしか運べないわけですよ。つまり価値がないと決まった魚は、捨てることになる。

福田:全くの無駄になっちゃう。

岡本:そう。それは人間が決めたシステムが生み出した矛盾ですね。「魚のサイズを揃えないと店頭に並べた時によろしくない」とか、たくさん獲れても陸側の都合がいろいろあって、結局無駄が出てしまう。まずは、消費者が「もったいない」を行動に移すときですね。

福田:飛躍した話になるんですけども、MITメディアラボ(米国マサチューセッツ工科大学の建築・計画スクール内に設置された研究所)所長・伊藤穣一さんが、仮想通貨を自然通貨の代替えとして使ったらどうかとおっしゃっているんですね。たとえばマグロの取れ高を仮想通貨化すれば、コントロールできるんじゃないかと。実用例でいえば、フォルクスワーゲンのエンジンの数値改ざん問題の解決事例があります。車の中というのはじつはブラックボックスだらけなので、部品から何から全部、ブロックチェーンのしくみを活用して可視化して記録しておくことで、クリーンな流通システムになったと。 なので前述の漁獲圧と消費の問題は、漁師さんは取ってくるけども、陸揚げ後に人間の物流システムに入った途端、その経済価値によって、漁師さんの預かり知らぬところで自然破壊になっていたということですよね。アウト・オブ・コントロールになっているこの状況を、ブロックチェーンが解決できるかもしれない。

岡本:そうですね。情報やテクノロジーによってそういうことがより簡単にできるのが養殖ですね。牛、豚、鶏それに野菜も、魚でいえば養殖ものですね。要するに、人間が手を掛けて育てているし、改良(育種)をしているわけですね。育種をすると、原種とはもう似ても似つかないものになる。ニワトリに至っては、365日卵産んじゃうし。

福田:チューリップは1年中咲くし。

岡本:自然界にいたものに、特別に手を掛けて改良してきたんですね。

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