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本物と贋作。 その違いの本質って?

ブロックチェーン×アートで新時代のイノベーションを起こす Talked.jp

施井:近い話に無理やりこじつけると、ブロックチェーンって「トラストレス」といわれているんです。パブリックのブロックチェーンシステムには情報の正しさを計算機を使って証明してくれる、いわゆるマイナーがいますね。マイナーは取引相手を信頼しなくても、インセンティブ設計でお金をもらえるし、マイナーが取引を保証してくれるからブロックチェーンを使うユーザーも、信頼出来る相手でなくても信用取引が出来る世界なんです。だから、ブロックチェーンって脱中心だけじゃなくて信頼関係がいらないって意味でトラストレスって、もう1個のキーワードでも語られる世界なんですよ。
 でも、一方で僕らの作っているブロックチェーンネットワークって、実は現場のトラストをそのまま転用してるんです。ブロックチェーンでは、アートに限らずなんですが「ブロックチェーン上の情報」と「現場の情報」とが一致しているのかを証明することが難しいところがあって、それを「オラクル問題」と呼んでいます。作品をブロックチェーン上に登録したけれど、作品を売って証明書を譲渡した時に、作品を贋作と入れ替えてしまったらどうするんだ、というような話ですよね。ブロックチェーンのプロジェクトはこの「オラクル問題」をどう解決するかというのがとてもネックになっていて、それを「トラストレス」で、かつ信頼が出来るものにしないといけないと躍起になっています。一方でアートの世界は作品証明書と作品がどこかで入れ替わっている可能性があるという意味では、その問題と250年以上ずっと対峙してきています。アートマーケットの解決策は、「ギャラリーの信用」とか「購入者の信用」を担保にして、見渡せる範囲で取引することことだったんですよね。
だから僕らはそのまま、ギャラリーの信用を記述していく方法から始めようと思っています。

福田:面白いな。社会って、若くて意欲溢れているのがいいことなのに、信用がないことで大きなことが出来ないじゃないですか。アメリカは日本よりはそのへんを認めますけど、日本だと、「結婚して半人前」で、「子どもできてようやく一人前だな」とか言う人、平気でいるじゃないですか、ほとんど関係ないのに。だから人格否定みたいに、若いからってことで信用ない風潮はちょっと解決したいですよね。「やってみなはれ」みたいなことでもいいわけじゃないですか。

施井:そういう意味では僕らは今、旧信用をそのまま踏襲していますけども、本来はまだ信用が浅い人たちもやりたいことをするために、どうやって信用を得られるようにするかっていうのは課題になりますね、きっと。

福田:大御所のアーティストに、「この仕組みでやったほうがいいよ」って広めるような活動予定はあるんでしょうか。

施井:それはやります。世界的にみんなに使ってもらうためには、日本のアーティストでいうと草間彌生さんや奈良美智さんみたいな超有名で、かつ贋作問題が起きているアーティストがブロックチェーンの証明書を使ってくれるようになるとすごくいいなと思っています。贋作問題はアーティストもですが、世界中のオークションハウスや二次流通市場関係者が困っていて、作品が本物かどうかの確認してもらうのも一苦労です。「本物です」「偽物です」の証明も、どちらに判定されてもすごいお金と時間がかかったり。さらには、審査できる人も限られるので、「月に何作品までしか真贋判定出来ない」とか、制約が多いんです。ピカソなんかは審査に1年くらいかかると聞いたことがあります。アーティストが亡くなった後に管理団体が解散して真贋鑑定をする人がいなくなってしまったなどの話を聞くこともあります。そういう意味では真贋鑑定がしっかり出来る人が存命のうちに、全部ブロックチェーン上に登録してしまわないと、世の中に贋作が出回っても誰もその真贋を証明出来なくなったり、そのせいで作品価値が下がる可能性もあると警鐘を鳴らしていきたいです。

福田:贋作専門の画廊を舞台にしたマンガ『ギャラリーフェイク』に、フランスのある機関に持って行ってそれが偽物だってなると、国外に持ち出しできなくてそのまま破棄されるから、みんな怖くて確認に行けないっていう話がありました。

施井:メトロポリタン美術館の館長が、「(戦争とかいろいろあって)うちの美術館の4割は偽物だ」って言ったんですよね。本に書いて話題になりましたけども。そもそもブロックチェーン上に記述する情報そのものが正しいか否かっていう問題って、もちろん作者本人が正しい情報を入れるのが一番理想ですけども、信頼ある機関が偽物の情報を入れてしまうっていうのもあれば、間違って入れてしまうこともあって、バッドエンドがそこら中に用意されているという。

福田:僕は今、あるアート展のプロデュースを頼まれているんです。長野県でお父様の代からずっと画商をやられていて、掛け軸とか古美術とか色々あるのですが、息子さんは東京で会社を経営されていて。でもそのお父様が80歳を超えられて「オレは引退する」となって「5000点の掛け軸から絵から、すごい資産だぞ」と言われて真贋を問うたら、半分ぐらい偽物だったそうです。
それでご相談を受けたんですが、そこには名画のフェイクも多かったので、フェイク展がいいだろうと。トランプ大統領の発信がフェイクだフェイクだって言うから、みんなフェイクを見抜く力があるかどうか試されているような風潮ですけども、自分にとって綺麗で心地良ければ、それは真実だという趣旨の展覧会にしようと思って 。

施井:それは「本物とは何か」「鑑賞とは何か」みたいな問いでもあるし、アートの鑑賞の座組としては最高に面白いですね。

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