「教えるセンス」を身につける

「教えるセンス」を身につける(前編)

構成:井尾 淳子
撮影:越間 有紀子
日程:2019年3月25日

三谷 宏治(写真右)

K.I.T.(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授の他、早稲田大学ビジネススクール・女子栄養大学 客員教授。元経営コンサルタント。 1964年、大阪生れ、福井育ち。東京大学理学部物理学科卒業後、ボストン コンサルティング グループ(BCG)、アクセンチュアで19年半、経営コンサルタントとして働く。
92年 INSEAD MBA修了。2003年から06年 アクセンチュア 戦略グループ統括。2006年からは特に子ども・親・教員向けの教育活動に専念。現在は大学教授、著述家、講義・講演者として全国をとびまわる。放課後NPO アフタースクール・NPO法人 3keys 理事を務める。 著書『経営戦略全史』(ディスカヴァー21)は10万部、ビジネス書2冠を獲得。最新刊は『新しい経営学』(ディスカヴァー21より9/27発刊)。 永平寺ふるさと大使。3人娘の父。
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福田 淳(写真左)

ブランド コンサルタント。1965年、大阪生まれ。日本大学芸術学部卒業。 ソニー・デジタルエンタテインメント創業者。 横浜美術大学 客員教授、金沢工業大学院 客員教授。 1998年、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント社 バイスプレジデントとして、衛星放送「アニマックス」「AXN」 などの立ち上げに関わる。 NPO法人「タイガーマスク基金」の発起人をはじめ、 文化庁、経済産 業省、総務省などの委員を歴任。 2017年、カルティエ提供「チェンジメーカー・ オブ・ザ・イヤー2016」を受賞(日経BP)。近著に『SNSで儲けようと思ってないですよね?世の中を動かすSNSのバズり方』(小学館)がある。

原点は、実家の八百屋での家業手伝い

福田:今日はお忙しいところ、ありがとうございます。はじめに、軽く自己紹介をお願いできますか。三谷さんは僕と同じ、関西ご出身ですよね。

三谷:母が大阪生まれの大阪育ちなので、生まれは大阪です。でも父が福井出身だったので、2歳半ぐらいから福井で育ちました。家の中ではあまりしゃべらない父親と、関西弁の母親と…という中で育ちましたね。

福田:お母様の関西弁を聞いて育ったことで、トークのスキルがついたというのはありますか?

三谷:あぁ…! そういうのもあるかもしれないですね(笑) 家の中では姉と競って食卓でしゃべってました。でも今の私を作ったものは何かと考えると、家業の八百屋ですね。

福田:ご実家が八百屋さんだったんですね。『お手伝い至上主義!「自分で決めてできる」子どもが育つ』(プレジデント社)というご著書がありますね。

三谷:私の場合は、まさに「お手伝いが全て」でした。それは家事手伝いの域を超えていて、「家業手伝い」でしたから。親や家族が働いて、ようやく自分たちが生きているという実感もありましたね。
大学卒業後に入ったのが、ボストン コンサルティング グループ(BCG)です。そこで年配の先輩と話していて。「私は親が自営業で、サラリーマンの気持ちがよくわからない」と言ったら彼が「じゃあ、サラリーマン小説を100冊くらい読めよ」と。城山三郎の『小説 日本銀行』みたいなものから読み始めました。大銀行って怖いのね…なんて思いながら(笑) その頃、同時に感じたのは、「なんでみんな、在庫のことをあんまり気にしないんだろう?」ということ。

福田:それは、どういうことですか?

三谷:八百屋にとっての収益源は生鮮食料品。そこで稼いでいます。でも一日経てば鮮度はアウトです。ハマチとかの大きな魚は一匹丸ごと安く仕入れて、それを上手に売っていくのが一番いい。でも、丸ごとはなかなか売れないから、柵に加工して売ります。それでも売れ残ったら、切り身にして小分けにする。夕方になってそれでも売れなかったら、母親がすばやくフライのお惣菜にして売る。そんなことをやって、ようやく売り切っていくわけです。売り切れなければ、全部私たちの夕食になるか、下手したら家の犬の餌になっちゃう訳です。八百屋での家業手伝いを通じて「在庫は怖い。薄利なのに売れ残ったら丸損」とか「自分が動かないと何も変わらない」ことを肌身に感じました。

福田:その身体感覚って、とても大事ですよね。

三谷:そうですね。「つまらない作業をいかに楽しくするか」を含めて、八百屋の家業手伝いの経験が、自分を作ってきたなと思っています。

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