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ネット時代の「自分探し」について

旅だけが ”本当”を教えてくれる ~名物作家の世界放浪記~  Talked.jp

福田:海外のエージェント会社のご経験も大きかったと思いますけども、「この本は売れる、売れない」というのがピンときたというそのアンテナは、やっぱり旅の力もあったんでしょうね。

鬼塚:結局、本の著者で売れる人って、「旅をした人」と「宗教観のある人」なんです。別に宗教に入っているから信心深いというわけではなくて、世の中に自分の訴えたいことが「これだ」と明確にあるということですよね。これをどうやってオブラートに包んで見せていくかという。

福田:なるほど。面白いですね。旅までは分かりましたけど、宗教観というのは分からなかったです。要するに自分の信念があるかないか? 宗教って何でしょうね?

鬼塚:「私は何のために生きているのか?」という問いに対して、自分の答えが出ている人は強いですよね。

福田:なるほど。そうすると、ネイティブネット世代の人たちは、どういうふうに自分探しをしていけばいいんでしょうね。旅はわかりやすいですけども。

鬼塚:今の若い人たちは、ネットの中に居場所を探しますね。今の人たちはスマホもあるし、情報もあるし、いろんな面で不自由のない生活を送っていると思うんですけど、それでもなんで「生きづらい」っていうのか、よく分からないですね。

福田:だからなんでしょうかね?「欠けているものがないから探す」っていうモチベーションが、最初からないのか。ネットの中に居場所は探しにくいですよね。リアルな場所にこそ居場所ってあるはずですよね、本来は。「もしかしたらあの夜、麻原彰晃に会いに行ってたらどうなっていたんだろう」なんていうことは、相対的に自分が何者なのかを考えるきっかけになったでしょうし。

鬼塚:やっぱりネットで見る情報と、実際に行った情報は違いますよね。

福田:五感を研ぎ澄まして、自分の肉体で体感するっていうことをしない限り、人間の「人間らしさ再発見」は難しいのかもしれませんね。だから、「いいからちょっと最低限のお金を持って、旅に出てみろよ」ってことでしょうね。

鬼塚:そうですね。私が思うのはね、ヨーロッパでも東欧の街でも、ちっちゃな街がすごく美しいということ。で、理由を聞いたら「行政に美大出身者が多い」とわかって納得しました。だから日本でも、役所は偏差値だけの採用試験はやめて、美大生枠を作ればいいと思う。そういう人たちが街の政策や景観づくりを担当すればいいのに、と。ヨーロッパは観光で稼いでいます。誰が作ったんですか? 芸術家ですよね。日本では誰ですかね? 基本、政治家ですよね。だからもっと日本の役所に美大出身者を増やせればいいなと。

福田:この話がアートで終わるっていうのが面白いですね。

鬼塚:私は鹿児島出身なんですけども、昔から鹿児島は何の産業もないって言われてたんですよ。工場がない、車産業もない、何もない。だけど今は観光で稼ぐって鼻息荒いですよ。観光業が一番いい産業ですよね。旅行者をおもてなしして美しい街を作ったらそれでお金が入るわけですよね? 観光業って素晴らしい産業ですよね。

福田:だから情報化時代にいいんですよね。ものを作らなきゃいけなかった20世紀だと、「どういう地産があるのか」っていう話になるわけですけど。今、街のブランディングも盛り上がっていますけども、それやってる人たちがそれこそアートセンスがないとか、海外の事例も見ていないとか、”太陽の塔”(岡本太郎)みたいなものを作ってみようっていう発想がないから、それは課題かもしれませんね。今日は面白いお話、本当にありがとうございました。

鬼塚:いえ。自分の話になってしまって。

福田:面白かったです。今の鬼塚さんに至るまでのプロセスが、すごい丁寧で面白かった。また是非、鬼塚さんが面白い人とお会いになるときは教えてください。

鬼塚:わかりました。ぜひまた。ありがとうございました。

(了)

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