大衆はリスクを嫌う
福田:その3番目思い付かないですよね。今、前者の中でいうと、どうせ濃い人しか来ないんだから、濃い人のARPU高めようよっていう究極がAKBモデルじゃないですか。
昨日、アート・アライアンスのCEO トーマス・ホウ(Thomas Hough)から聞いた話で、イギリスの状況なんですけども、映画に来るお客さんの稼働が20パーセントで、80パーセントの席は空席のままという映画館があって、そこに目を付けて、FIFAだとかオペラだとかなるべくライブっぽい映像をマルチカメラで撮った権利を買って、劇場で配信しているんです。
で、来月ソニー・ミュージックのミュージシャンのワン・ダイレクションのライブ配信をやるんですね。そしたらティザースポット(予告動画)が500万視聴があって、彼の感覚だと、その内100万人くらいがチケット買うっていうんです。ライブでワン・ダイレクションに行けない人がその映画館に見に来るんですけど、チケット代が16ドルくらいなんですね。それで100万枚売れるとなると、総売り上げが16億円くらい。悪くないわけですよ。劇場に入れなかったり、イベント会場に入れなかった人、「今後どういうシリーズでコンテンツ・アグリゲーション(集約)していくのか?」って聞いたら、「オペラだ」と。オペラって、富裕層の固定客がいて、絶対6作品くらいシリーズでラインアップするそうです。ずっとロンドンのこの映画館でやりますよって言ったら、通しチケットで買うっていうんです。言ってみれば、大人のAKB戦法っていうか、だから、1人からアープ高めるっていうのは、この辺りにあると思うんですけど、今の3番目の20日間やるっていうのは・・・。
山口:大衆化です。だからそれはもう投資なんですよね。今、劇団の株式会社化を進めているんですよ。というのも、劇団って本当にPL(損益計算書)しかなくて、1回やって精算。
福田:そうですね。
山口:BS(貸借対照表)発想がないのです。しかし、劇団員を社員化すると、それだけで多分差別化できるのです。まぁ、当然、投資家が必要なんですけども、それって大した投資じゃないんですよね、本当に。数百万なんですよね。
福田:チケット売っている人って劇団員ですもんね。「おまえノルマね」って、つまり「売れなかったら身銭切れ」という話ですから、あれは同じ経済圏の中で成り立っていて、つまりチケット売り切れない劇団員だけがラーメン屋で深夜バイトをしながら補充するという・・。脚本書く人なのか主催者なのか知りませんけど「教祖」がいて、たまたまその人の脚本が面白ければ、2割ぐらい外から客が来て、ギリギリ成り立っている。それを考えると、今の3番目の発想は新しいですね。
山口:ポピュライズする・・。大衆の本質は「リスクセンシティブ(リスクを嫌うこと)」です。同調欲求というか、リスクをヘッジしたいってことだと思うんですよ、大衆化っていうのは。だから、保守党はどこの国でも中心になるじゃないですか。
クリエイターとマーケター
福田:その発想に至ったのは、もともとそういう金融とかM&Aとか、そういう世界にいらっしゃったこともあると思いますが、先ほどおっしゃったように、ご自身が絵を描いてらっしゃることも関係あるのではないですか。僕はずっとビジネスマンとして生きてきて思ったのは、この世にはクリエイターかマーケターの2種類しかいないと。一番優れている人は両方のセンスを持ったどちらかなんですよ。村上隆さんは、絶対に「マーケターのセンスがすごく優れたクリエイター」ですよね。でも、奈良美智さんはマーケターの人や編集者の人が周りに居て、初めてクリエイターとして成り立っている。
マーケターって、お金出したり、引っ張ってきたりする機能が要るじゃないですか。だから、大体大手企業に勤めているケースが多くて、偉そうですよね(笑)。ほとんどプラットフォーマーの中にいるんですよ、テレビ局とか、ネット企業とか。で、マーケターはあんまりクビにならないから、威張ってはいても、大したクリエーションを掘り起こしてないんです。そこが今問題で、例えば、初めに山口さんもおっしゃったけれど、「アートをどうやってマネタイズするか」というテーマ一つとっても、音楽業界はもうレコード会社が宣伝して、「俺、音楽だけやってりゃいいんだ」って時代は終わっているんですよね。
この間、元ソニー・ミュージックのプロデューサーのスティーヴ小山さんという方が、新しい切り口のアーティスト育成のこと言ってます。旧来の対バン形式(複数の新人ミュージシャンを数曲ずつ歌わせ競わせるスタイルのライブ)はダメだと。出演したって、7人出演してその中の1人じゃ固定ファンも来にくいしCDデビューもできない。
そこで、「CDはもうグッズってことにしましょう」と。そもそもの価値は音楽そのものにあるのだから、工藤江里菜って新人アーティストに「まずYouTubeで君のチャンネル作ろうと」ってプロデュースしたんですね。ここまでは普通。
で、「君のオリジナルソングって言っても、きっと殆ど視聴回数増えない。でも、歌はうまいし、声もいいから、全部好きなミュージシャンのカバーにしないさい」と。カバー曲ずっとやっていると、ある固定的なトラフィックになってくる。そこで次の手として「私、毎週金曜日になったら、渋谷の街角でやってますよ」って路上ライブを続けたら、さらに固定ファンが増えたんです。それが結構な数になったらときに「CD出すのに400万掛かるので、クラウドファンディングします」と言ったら、パッと即集まっちゃうんですよ。すると、そのプロデューサーは彼女に「お金の管理も全部自分で計算しなさい」って言うんですね。音楽だけやるんじゃなくて、金勘定も全部やったら強いから、と。
多分、今まで音楽会社に金勘定を任せてるミュージシャンでも、ずっと一流であり続けてる人は、ある程度そういうマーケターのセンスもあるんですよね。例えばマドンナなんか見ていると、明らかにそうですよね。「ワーナーミュージック(音楽出版社)辞めて、ライブ・ネイション(ライブ興行会社)に入ります」っていうのは、どう考えてもCDじゃなくて、ライブのほうが儲かるよな、と考えてる。この間、アイアン・メイデンって有名なヘビメタのグループが世界中で自分たちの音楽を一番違法ダウンロードしてる国はどこか調べたら、南米だったんです。そこで南米で集中的にライブやったら、過去最高益だったそうです。つまり、「音源はもういい、これからはライブだ」っていう目の付け所ですよね。クリエイターでありながらマーケターというか、そういう観点で言うと、僕は“アート支援”っていう発想自体に問題があって、支援しているとアーティストも駄目になっていくじゃないかと考えているんです。
山口:そうですね。大切なのはむしろ教育ですよね。
福田:マーケターはもともとサラリーマンだから駄目なんですよ。クリエイターはもうちょっとイケてないといけないんで、どういう関係性の中でお互い高めていけるか、僕の課題ですね。
山口:そうですね。今、東大の大学院にいるのですが、実は一番やりたいのは、芸大でレクチャーを持つことなんですよ。「財務会計論」って、一番、人が集まんないじゃないですか。うちの兄は、ベトナムで海外実践プログラムやっているんですけど、昭和女子大で「アントレプレナー(起業家)講座をやる」と言ったら、4人しか集まらなかったんですって。でも、アーティストこそ、財務会計をやるべきなんですよ。全然違うことを学ぶべきだと思うんです。そういうことに対して、日本人はみんな苦手意識を持ちすぎ。ヤンキーはオタクと付き合うべきなんですよ。オタクはヤンキーと付き合うべきなんですよ。本当そう思います・・・。
福田:思いますよね。