アイデアのある人は悩まない
山口:先ほど言ったように、大衆は基本的にリスクセンシティブだと思うんですよ。「デートに連れて行けないから、演劇に行かない」っていう話で言うと、僕はすごい小心者でもあるんですよ。
福田:そうなんですか。同じですね。
山口:で、小心者はどうやってそのリスクをヘッジするかっていうと、全体を見るしかないと思っているんですね。全体を見て、オルタナティブを発見するっていうか、本当、動物的な衝動から、僕はすごく物事を鳥瞰的、全体的に見るようになったと思っていますね。
その考えで言うと、今は何か一つにスペシャライズしていくっていうのは、実は本質的にはリスク管理能力が低いと思います。例えばNTTにずっと勤めていますとかって、大企業共同体が破壊されてく中では、一番リスクが高い行動ですよね。「アイデアのある人は悩まない」っていう言葉、大好きなのですけど、僕自身は例外行動を取っていると思わなくて、むしろ、その他という選択肢がある限り、安心していられるんですよ。他の選択肢があるって、物事をホリスティックに見ることだと思っているんですね。ヨーロッパの人たちには、それがあると思っていて、あんなに戦争ばかり、もう要するに大陸つながってますから、大変でしょ。
福田:戦争ばっかり起きていると。
山口:戦争ばっかり、ひっちゃかめっちゃかですよね。国際結婚も多いじゃないですか。流動性も高いですよね。あれは、どっか森に1個住み込んでいたら、やっぱりすぐ攻め込まれて終わってしまうんですよ。
福田:なるほど。そういう緊張感もあって。
山口:緊張感、全然違いますよね。そういう意味では、もうみんながみんな、いろんなオルタナティブを持つ。例えば自分はアーティストになれるかもしれないし、プロデューサーになれるかもしれないし、NTTに就職できるかもしれないし、教授になるかもしれないって可能性をぼんやりと持ちながら、キャリアを形成することによって、そのような多面的な視点を持てるんじゃないかと思う。そっちのほうが・・・。
福田:社会としても成立させられるし、その人もある程度思ったことができる・・。それこそがヨーロッパなのかもしれませんね。
ただ、今後の日本人の方向性で考えると、ソーシャルメディアとかネットのいい面だけ見たら、ダイバーシティーが深まる可能性はないですかね? というのも、今月号の『CanCam』に「何でも数字で表します」っていう特集があったんですが、『CanCam』読者のFacebookの友達の数が平均550人ぐらいだったんですよ。人って、「何人友達いる?」って言われたら、いたとして100人程度で、500人もいませんよね?
山口:いないですね。
福田:バーチャル上の付き合いだけの人が半分いたって、残り250人・・。大した数ですよね。つまり、ソーシャルメディアの発展によって、「俺、文系だけど、理系も好きだぜ」みたいな交流が今後もっと活性化して、いろんな視点が持てるようになれる可能性ってないのかしらって、今、ふと思ったんですけど。
山口:有機化する所に業界を越えて、越境するところが一番実は収益性があると思うんですよね。例えば、先ほど紹介した劇団は、10年間ずっと見に行っているんですよね。で、絶対に友達を連れていくんですが、これまで1回もクレーム来たことないんですよ。だから・・・。
福田:面白いと。
山口:要するに、単純に面白いんです。だから、クレームを受けない。それなのに、看板役者3人バイトしながら、「35歳になります」「ですよね」って・・、20歳からやっていますからね、それはおかしいだろうと思って。一方で、世界を旅すれば、いくらでもなんかオペラ座も見てこれたし、ロンドンやニューヨークのブロードウェイとか行けば、ビジネスモデルを幾らでも模倣できるし・・。「なんでこのシャンパンが8ユーロなんだよ!」みたいに思いながら、でも飲まざるを得ないような雰囲気とかあるじゃないですか。
福田:ありますね。
山口:それをそのまま移植しただけですよ。結構単純な感じで、他のみんなはそれをやらないだけという感じもしますね。
福田:どうなんだろう。でも、知らないんじゃないですか。事象としては知っているんでしょうけど、やっぱりそれを取り入れようというところにマーケターのセンスがおありになったんですね。山口さんが経験された分野と今後支援しようと思っているエリアが違ったので、なんかダイバーシティープログラムの効果が起きちゃったんですよ。
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