工場勤務型のビジネスマインドを壊せるか
福田:人生の幅を見た時に、ニノさんは「ここでの成功が自分のゴールではない」という見極めをされたわけですよね。その若さで、その判断ができたのは天才的です。ただ今日の対談は、「すごいですね」と驚くよりも、大企業を辞めて独立して、またあらたなチャレンジをされていることに対して「そうだよね」と共感する感じのほうが強いから、僕は聞き手としてよくないですね(笑)。むしろ、よく10年も頑張られたなと思いますよ。
二宮:仕事が楽しかったというか、仲間が良かったというのが、10年走り続けられた一番の理由です。今でもそうですけどね。仕事って、始める時は自分の力で一生懸命汗かいて頑張るけれど、ある時1人ではできない限界が来るじゃないですか。そこで他の人の力を借りるわけですけど、方法としては委託的に作業をやっていただくとか、自分ができない部分を対価を払ってやっていただくとか、色々ありますよね。僕の場合、同じ組織の中に僕よりも得意なものがある人と仲良くなってその仕事をやってもらえたら、自分が一人で抱えてやるより、たくさんのことができるなと思う人たちがいたので。
それを続けていたら、すっごい楽しいチームになっちゃって。会社の給料とか役職とか関係なく、「楽しいから」という理由だけで続いていたんです。ただ、問題点も出てはきました。自分のチームで創造的に活動している分には楽しいんですけど、会社からのオーダーに、目的を感じられないことが多々あったんですよ。「何のためのAIですか?」「何のためのブロックチェーンですか?」「何のために作って、これで何をやりたいんですか?」みたいな。日本の企業は、まず「枠組みを作ろう」みたいなことが目的になりがちですよね。だから会社からのそういうオーダーをこなすだけではつまらないし、それならば自分の目的を、自分の会社でやっていきたい、いうところに行き着いたんです。福田:先日、コンセプターの坂井直樹さんと対談した時に、坂井さんがさらっとひと言、「いつまで経っても工場勤務の時代から変わらない上意下達マインドで、会社にいる人が多いですね」と。そういう組織構造のヒエラルキーの中で生きているから、ますます日本はイノベーションを起こせない状況になっている。
連続起業家の孫泰蔵さんのように、組織を極端なまでにフラット化させ、プロジェクトをそれぞれの専門家のクラウドで解決していく。それでも解決できない問題は、別のクラウドにアウトソースしていく。このやり方のほうが、「予算決めて、稟議通して、課長、主任云々」っていう20世紀型ビジネスのやり方よりも、よっぽど早く物事が完成します。じゃあ、「20世紀の工場型で続いてきた組織をいったんぶっ壊しましょう」って言っても、もし自分がその組織の専務とか常務とかぐらいの部署にいたら、(もう逃げ切りでいいか…)って思うのは普通なんですよね。人間ですから。二宮:そうです。普通、普通。
福田:で、その間に一企業も全体も、どんどん競争力がなくなってしまう、と。これは日本だけの問題というより、シリコンバレーのスタートアップ企業でもそういうことが起きています。要は物事の進み方が早くなった分、離合集散がさらに早いということ。だから、日本社会全体がどんどん年をとっていって、とことんダメにならないと、経済構造は根本的に変わらないですね。日本はまだイギリスの2倍ぐらいのGDPありますし、なんだかんだ、これまでの貯金でいけてしまう。
二宮:だからこそ、孫泰蔵さん式の「強みはどこですか? それを活かしていきましょう。それ以外は(外注で)お願いしましょう」でいいと、僕は思っているんです。世界からどんどん新しいものが出てきているんだから、日本の企業は組織の機能を疎結合化して、新しい機能を取り込みやすい小さくスマートな組織構造にすればいいと思うんです。必要な時に必要な能力を持った仲間に「助けて」という形で寄り集まって仕事をするっていう。その方が新しい物をどんどん簡単に取り入れられるし、「あ、これちょっと古くなったね」って、置き換えがしやすい。なぜそうやらないのかなと思いますけど。でも、福田さんのおっしゃるように、とことんダメにならないと、今これだけ加速度的に色々なものが起きていても企業が今までと違う手慣れないやり方で取り組むことは出来ないですよね。
福田:Clubhouseの飽き方の早さって、日本的で良かったなって思うんですよ。「サンフランシスコは1年前からやってるんだよ」とかって言われても、ワーッと言ってパーッてやって、もうみんなやってないっていうのがね。ものすごい日本っぽい。
二宮:たしかに。これからどうなるか、成り行きは見たいですけどね。