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世界のバーチャル撮影スタジオの最新事情

伝説のプロモーターが読み解く「エンタメの未来2031」(後編)  Talked.jp

福田:リチャード・チェンバレン主演の『将軍 SHóGUN』(1980年)じゃないですけど、かつてエンタメで成功しよう思ったら、ハリウッドに行かなければできなかったじゃないですか。でも『イカゲーム』の成功は、Netflixのような世界的なオンラインがベースにあって、極めてローカル(個人的な出来事)なことでも、グローバルに響くクリエイティブを見せることができるようになった証左です。韓国の躍進は、日本にとって非常に参考になるケースだと思います。

北谷:そうですね。今までは映画、もしくは大規模なテレビ作品を作ろうと思うと、どうしても撮影所、もしくはロケーションが必要でした。でも昨今はバーチャル撮影技術が飛躍的に伸びてきた。今、高品位のバーチャル撮影がなされた映像は、リアルなのかバーチャルなのか、ほとんど見極めが付かない。そこまで技術的にアドバンスしているんですね。
最近、ロンドンに「ガーデンスタジオ」という撮影所ができたんです。ここは世界初のフルのバーチャル撮影専門のスタジオです。完成してから、まだ1年半ぐらいしか経っていませんが、今何が起きているかというと、ハリウッドの大作の多くがロンドンに来ている。たとえばコロナウイルスの管理も、バーチャルスタジオなら簡単でしょう。限られたスペースの中で、入ってくる人間を全てチェックして、完璧にコントロールできます。これが昔ながらのハリウッドの、たとえばコロンビア映画のサウンドステージだったら、人の出入りも多種多様で複雑です。でも「ロンドンのガーデンスタジオに行けば、相当レベルのものが撮れてしまう」という話がパッと広がって、今はハリウッドの大作も、アメリカで作るのはお金もかかるし「しばらくやめよう」となっています。アル・パチーノなどもロンドンに行って、バーチャルスタジオで次の大作のシューティングをしているんですよ。

福田:そうなんですか!それはXR的なことなんですか?

北谷:XRですね。それから、実際に役者にセンサーを付けて動かして、それをCGが作り上げた映像の中にはめる。そのデモンストレーションをしながら、実際に撮影できるんです。だから、ポストプロダクションではめる必要もありません。

福田:すごいですね!

北谷:コンピュータがジェネレートした背景に、役者もしくはスタントマンの動きが実際のシーンにどうはまっていくのか、リアルタイムに見て確認することができます。かつて映画とビデオの一番の違いは、「さっき撮ったものが即時に見えること」でした。それでフィルムカメラの横にビデオカメラを置いて、プレイバック確認をすることが始まり、さらに4Kのデジタル映画用カメラの使用が広がったわけですよね。それと全く同じで、今はバーチャルスタジオでつくれば、どういった映像になるかをその場でチェックできる。

福田:『スター・ウォーズ』の時代はブルーバック合成(*5)だったから、俳優の目線と宇宙人の目線が合っていないとか、演じる人のカンの部分に頼る部分がありましたよね。それがどんどん進化して、今はXRになった、と。そういう世界の最前線に対しても、北谷先生のおっしゃるところの、書き割りも絵コンテも何にもないような状況であれば、相手にされるどころかもう……。

北谷:ついていけないですね。せっかくそういった装置があっても、それを使いこなすことさえできない。ガーデンスタジオみたいなところができてくると、たとえば時代劇なら京都の太秦に行かなきゃとか、ドラマの撮影もたとえばTBSの緑山スタジオまで行かなきゃ、といったことが解決します。なぜ地方や郊外にそういう場所があるかというと、都心には土地がないからです。でも、すべてCGで対応できるバーチャルスタジオなら、2エイカー(約8000平米)ぐらいあれば、全部はまっちゃうわけですよ。

福田:日本のテレビ局は、今や不動産産業だから。試しにバーチャルスタジオに投資する価値はありますよね。土地はあるわけなので。

北谷:本当にそうです。都心で土地を持っているテレビ局は、バーチャルスタジオを作れば非常に需要もあります。役者にとっても、製作スタッフにとっても、いちいち遠くまで行かなくてもいいわけですから、タイムロスがなくなる。何日も大勢で寝泊まりするコストも発生しなくなる。東京集中になるかもしれませんが、それも新しい流れですから、そういったものに敏感に反応しないと、アジア全体でもまた日本は遅れをとってガラパゴスになってしまう。おそらく韓国や中国、台湾、香港がそういうスタジオを先に作ってしまいますよ。

(*5)映像の合成技法の一つ。青または緑の背景を使い、抜き取りたい被写体を背景から分離し、別に撮影した背景にはめ込むこと。色の違いを利用して映像を合成するクロマキーの一種。映画やテレビでの映像合成に用いられる。

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