チップは能動的に「取りに行く」システム
福田:しかも、店内で新しいコミュニティーができるという……すごくないですか。それ、どこですか? 北京? 上海?
成嶋:広州です。ある飲み屋さん行ったら、そこでもそういうシステムになっていました。飲み屋はすごくて、例えばお水を頼みますよね。そうすると、裏で黒服とかホールとか会計とか見ているんですけど、酒屋が見ているんです。酒屋が在庫管理をしていて、「いくら減ったら、全部その酒屋にたのむから、在庫リスクは酒屋で」みたいな。つまり店にある在庫は、酒屋のものなんです。
福田:もともと在庫をコントロールするのが酒屋ですもんね。そこの部分を店側が放棄した。
成嶋:そうです。納品を増やすとか、そういうのもみんな酒屋の判断なんですよ。
福田:でも、店はそれを放棄して、どうするんですか? 単純に利益だけを酒屋からもらう?
成嶋:いや、普通に納品しているんですよ。普通に店はその値段で買っている。ただここは、一社独占できるっていうだけです。
福田:そのシステムを作っているプラットホームがいて、それを利用している人たち、という話ですよね。
成嶋:WeChatでやっているんですよ。
福田:そうなんですか。
成嶋:無料のツールをちょっとカスタムしてやっているんです。そこのお店はグループでママが30人ぐらいいて、キャストが8000人ぐらいいるのですが、それを無料ツールで管理しているんですよ。すごくないですか?
福田:それは全コミュニティーの中の、何かのアプリケーションサービスだというような割り切りなんですかね。
成嶋:そうです。だから、うちの「人形屋ホンポ」も、ある意味、無料で管理をしているところが少しありまして。例えばうちの商品の検品はLINEなどのSNSでやっているんですよ。例えば、LINEで最初に「このバーコード読んで」とか、「次に最初の写真撮って」……ってやって、終わったときにまた写真を撮るみたいなことをやっているんですけど。それをずっと見ている人がいて、その人は「一日何件やって、どのサイズが何分で終わっている」というのを見にきているんですね。そうすると、そのままそこでその人の賃金が決まる。さっきの広州の中華料理屋さんがすごく賢いのは、通常、個人間のQR決済同士だと、手数料がかからないんですよね。 一方、QR決済の会社の方も、ここら辺の考え方がこれからの会社の分かれ道なんですけど、この場合は、全体と見ればお金の取引は一回だから、そこは1回分しか手数料を取らないで、そこの内部関係のトランザクションを全部拾いにいってコミュニティを広げ、情報を集めにいくのか。そういうところも手数料を毎回きちっと取って、その需要を取りこぼすのかということに繋がるわけです。
福田:でも日本企業って絶対、手数料を取りたがりますよね。「コミュニティーを広げたほうがメリットになる」という考え、ないかもしれませんね。
成嶋:この場合は個人から会社に決済が移動しても、最終的に個人の給料でもどるはずなので、そこで1回取ればいいんですよ。
福田:ああ、なるほど。
成嶋:そのように文脈を考えて、決済機能は開放したほうが絶対いいんですよね。インフラですから。トランザクションでちゃんと追えるので検証できるし、それがちゃんと連携しているので。そこ一回だけ、というのが日本企業にできるかどうか。
福田:絶対、無理でしょうけど。僕はアートギャラリーの運営の仕事でロサンゼルスに隔月ペースで行くんですけど、チップ担当制というのは酷いままですよ。働いている人は、店も見ていないし、客も見ていないし、どっち側も見てない。だからその仕組みをアメリカ人に入れたときに、お金のためだからって向いてくれるのかな、お客の側に……。
成嶋:アメリカはお客さんに負担させている感じじゃないですか。そのスタッフのがんばった分をチップという形で、ユーザーに負担させているともいえますよね。そのチップ分をアジアは価格に内包する感じなんですけど、日本は内訳のインセンティブ部分にもあまり積極的じゃないですよね。
福田:なんかもう「気持ちを入れろ」というか、従業員に対して、「これだけの給料やっているんだから、心を込めておもてなししろ」という精神論でいってますよね。
成嶋:中国の場合は、インセンティブを「自分で取りにいく」という形なんですよね。 で、それって……あとで考えたんですけど、販売価格に対するインセンティブとすると、「これだけやったのにこれしかもらえない」となりがちで、やはりどうも紐づきが悪くて。あと、売上を上げるために安くして大量に売られちゃうと、企業の業績とインセンティブが連携しなくなる。だから利益ベースでやると、積み上げた利益の少なくとも何分の1がもらえるとなって、イメージとニアリーになってきますよね。そこら辺もすごく賢いと思っています。利益で管理してしばるんじゃなくて、利益の取り方を見せることで、却ってよりどころになって、自由にできるというのはなんかこう……補助輪じゃないですけど、自走する人間を作るには最初のステップとしては、すごくいいな、と。
福田:頑張った人が頑張る社会が、中国のほうが実現している。
成嶋:そうなんですよね。
(後編へ)