一方通行の「しゃべり」で、消費者の心は動かない
馬場:でしょう?「この差は何なんだ」と思いました。ジャパネットで私の顔がまだ売れていない、というのはもちろんあります。でも、「しゃべりに関しては、あの先輩MCと比べてもそんなに下手だとは思わない。高田明の佐世保弁混じりのしゃべりに比べたら、僕のしゃべりのほうがよっぽどスマートじゃないか。なのに、なんで売れないの?」と、悩むわけですよね。ところが電動シェーバーだけじゃないんですよ。翌日、電動歯ブラシとか時計とか、いろんなものを売っても、売っても売れないんです。これはもう本当に、悩みに悩みました。
福田:48歳で、しゃべりのプロ中のプロが、ですよね。
馬場:今まで20年間、私が積み上げてきたものは一体何だったんだと、悩んだわけです。結果、初心に戻ろうという結論になって、そこで何をやったかと言いますと、高田明のしゃべりを完コピしました。 高田明が200本の電動シェーバーを売ったしゃべりをビデオに撮って、自宅に持ち帰って書き起こしをして。一言一句違わずに、佐世保弁も全部書き写したんです。高田明がしゃべったとおりに私も家でしゃべって練習したんですよ。
福田:ちなみに、その20本売ったという先輩MCの方と高田さんも、全く違うスタイルなんですか?
馬場:そうですね。私と高田明の中間くらいのスマートなしゃべりで、分かりやすく説明をしていらっしゃいました。
福田:でもその……高田さんのしゃべりを完コピしようっていうことに対して、専売特許じゃないですけど、それはOKなんですか?「完コピとは何事か」とか、「もうちょっと工夫はないのか」みたいな。
馬場:追い詰められていましたので、そんなことは言ってられなかったですね。もうなりふりかまわずでした。高田明が売れているんだから、このしゃべりをとにかく完コピしよう、そのまま体にしみ込ませようと思いまして……。 そうして真似しているうちに、いろいろと見えてくる部分があったんです。
福田:なんだったんですか、それ。言っちゃって大丈夫ですか。そんな重要な秘訣を(笑)
馬場:ちょこっとだけ、お話をしてしまうと……。まず、私のしゃべりって、たしかに上手なんです。スマートにしゃべっているんです。ただ、気付いたんですよ。私のしゃべりは一方通行だったということに。
福田:ほお~。
馬場:お茶の間のお客さんに向かってしゃべっているようで、実際はこっちが一方的に説明しているだけ。こっちが言いたいことを話しているだけのしゃべりだったんです。
福田:でも、それでいいんじゃないんですか?
馬場:普通はそう思うんです。ニュースもそうですよね。
福田:そうですよね。事実を伝えるものですから。
馬場:ええ。ところが高田明は何が違うかというと、カメラの向こう、お茶の間にいらっしゃるお客さんと、目と目を合わせてちゃんと会話していたんです。だから私とはカメラアングルも違いました。この気付きには、本当にびっくりしましたね。