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旧来の建築業界に馴染まなかった

建築を社会と「再接続」する~若きテック系CEOの挑戦とは(前編)   Talked.jp

福田:武漢で最初にコロナが起きた時に、3Dプリンターで入院病棟を2週間で作った、なんて話もありましたよね。そうなってくると、建築の考え方が根本から変わりますよね。

秋吉:そうなっていくといいんですけども。その根底にあるのは、「中央集約から自律分散型へと変化した先に、権威が消滅する」というような話で、ShopBotが120台、あるいは1000台あるということでスケールメリットが出てきます。これまでの産業のように、数億かかってラインが整備されて…という中でやっていくと、その工場の生産キャパシティによって決まってしまいます。一方で分散型になると、必要な時、必要な場所、必要な人に合わせて、同時並行して製造できることが強みとなる。

福田:それはもう「すごいな」と、ひと言で言う以上のイノベーションですよね。そういう発想はどこから湧いてこられたのでしょう? 

秋吉:やっぱり、根本から変えたいと思ったからですね。僕は建築好きではあったのですが、建築の業界には馴染まなかったといいますか。

福田:そうなんですか。

秋吉:大学1年生当時は、建築業界や建築家がキラキラしていることに憧れていたんですけども、次第に業界の中で閉じているものを強く感じました。自分たちが世の中に出て建築を仕事にしていくことを考えた時、「これまでのこのあり方で、本当にいいのか」と疑問を抱いた。一方でインターネット産業はもっとオープンで人を奮い立たせるというか、とくにスタートアップは自由に表現して社会を変えていく、ということが出来ていると感じたんです。逆に「なぜ建築業界ではそれが出来ないの?」と、学生時代は考えましたね。

福田:いろいろな産業がインターネットの登場によってぶっ壊されて、上意下達だった関係が左右に、横へと広がっていく中で、建築だけはやっぱりコストがかかる。なので権威主義からなかなか離れられない構造を持っているかもしれませんね。「資金がなければできない」という前提があると、どうしても民主化できない。

秋吉:そうですね。他のハードウェアスタートアップもそうかもしれないですけども。でも自動車産業の場合でも、以前だったら工場ラインを整備して…という話だったものが3Dプリンター、ショートサーキットでできるようになる、というのと、建築も同様だと思うんですね。特に建築は自動車のように鉄や樹脂ではなくて木材を使います。日本の国土の3分の2は森林なので、近場にあるものを調達して作る、というところでいうと、分散型とはめちゃくちゃ親和性がある筈なんですよね。そこにビジネスの種を当て込んでいけば建築としても、本来理想とする、あるべき姿に戻っていくんじゃないかな、と。そういう直感はありました。

福田:ソーシャルグッドで地球に優しく、民主的な建築と考えてみたら、たしかに秋吉さんがやっていらっしゃる方法が今考えうるベストですよね。もちろん進化はしていくにしても。

秋吉:そうですね。もともと大学院が3Dプリンターの研究室だったんです。コンクリート3Dプリンティングなども研究していたので、そっちをやる道もあったんですけど。ただ海外の人たちが見学に来た時、「日本の桜を見たい」とか「杉を見たい」とか、「ヒノキって、本当にすごい肌触りですね」など、そういう話を聞くと、海外の人たちはやっぱり、ローカルな材料を使ってどうデジタル利用するのかということを、先陣切ってやっているんですよね。砂漠の砂を太陽熱で固めるとか、土を3Dプリンティングするとか。そういう意味でいうと、日本でやるならやっぱり木材だろうな、と思いました。ビジネスとしては、コンクリート3Dプリンターとかのほうが最近は話題でキャッチ―で、「安くなります!」みたいな話もあるかもしれないですけど…。やっぱり安さよりも、その地域や国の状況、風土に合ったあり方を掘っていったほうが、建築としても意義があるのではと考えました。

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