対談 中邑賢龍 × 福田淳

空気を読めない“異才”がイノベーションを起こす

福田:今日お話しをしていて感じたのですが、中邑先生は人に対する見方が優しいですよね。マイナーであってもいいとか、脇道に逸れてもいいとか。そういうマインドは幼少期からお持ちだったのでしょうか。

中邑:持っていなかったですね。やっぱり重い障害を持っている人たちに会ったことがきっかけです。それまでは僕も、がんばれば何でもできると思っていました。できないやつは努力していないんだって。ところが、世の中には本当にがんばっているのにできない人って絶対的にいるんだってわかったわけです。それからですね、そういう視点を持てたのは。
「ROCKET-異才発掘プロジェクト」(*3)っていう不登校の子の学習プログラムも開催しているんですけど、今、賢い子ほど不登校になるんです。昔は障害などが問題だったのが、最近の相談を見ると、すごく賢いのに不登校になって悩んでいる子が多い。で、「なんで学校行かなくなったんだ」ってその子たちに聞くと、ある子は「いや俺ね、『先生の話はつまらない』って言ったんだ」と言うんです。「覚えていることを何度も繰り返すから、『1回でいい』って言ったんだよ。そうしたらいじめられるし、すごく怒られた。だからもう学校に行きたくないんだ」と。彼らは空気を読まないんですね。でも頭はすごくいい。実はこういう連中が世の中でつぶされているわけです。内申点をもらえなくて進学できなかったりして。
でもこれからイノベーションを起こすのは彼らですよ。大企業は「個性豊かな若者が欲しい」と言っておきながら、未だにオールマイティで協調性の高い人たち採用しています。で、似たような人たちの中で「イノベーションを起こそう」なんて言っていますけど、起こるわけがない。イノベーションは空気を読まない人間が起こすんです。福田さんや私のような(笑)。幸い僕らはつぶされずにここまで来ている。それは強さがあったのだろうし、たぶん親があきらめていたんだろうと(笑)。

福田:僕は次男だから、たぶんチャレンジ枠だったんでしょうね(笑)。

中邑:でも、そういうチャレンジできる枠って大事で、それを作ってあげないといけない。その役割が、今僕らのやっている「ROCKET」っていうプロジェクトなんですよ。自分らしさを発揮できる場所。たまに子どもたちが「先生はいいな、好きなことができて」って言うんですけど、僕らが子どもたちに「じゃあ好きなことをできるようにしてやる」と。
先日「ROCKET」で堀江貴文さんに話してもらったんですけど、いいこと言うんですよ。彼は子どもたちに「やりたいことある?」って聞いて、子どもたちが「ハイ」と答えると、「今すぐやれ」と言うんです。「将来やろうなんて思うな。今すぐやれる時代になってるんだぞ」って。

福田:僕も彼にお会いしたことありますけど、言っていることは鋭いですよね。

中邑:でもウチの子どもたちも負けないですよ。話を聞いた後に子どもが堀江さんに聞くんです。「ところでおじさん、何やってる人?」って(笑)。さすが僕の選んだ子ども(笑)。こういう子どもたちが次の世の中を作っていくんだろうと。だからつぶさないようにしなきゃって思いましたね。

(*3)ROCKET-異才発掘プロジェクト
日本財団と東京大学先端科学技術研究センターとの共同プロジェクトとして、2014年にスタートしたプログラム。小学校3年生~中学校3年生を対象に、突出した能力を持つが現状の教育環境に馴染めず、不登校傾向にある子どもを選抜し、継続的な学習保障及び生活のサポートを提供。将来の日本をリードしイノベーションを起こす可能性のある異才を育む教育環境の創成や、彼らが活躍しやすい社会の実現を目指す。

掲載/月刊『B-maga』最新号 9月号(9/10発行)